Nicotto Town


あなたに会えてよかった♪


【第8話】シン・ラジオ・ガール


「てことは、あなたは高校2年生、私と同じ年ってことね」
「あ、うん そうだね…」

「ラジオよく聞いてるの?」
「あ、うん そうだね…」

「今日は一人でイベントに来たの?」
「あ、うん そうだね…」

彼女はくすっと笑って此方を見る。並んで歩いている夏の夕方の舗道は案外人が少ない。

「え…ど、どうしました?」
焦って俺はどもりながら彼女を振り返った。

そしたら、彼女はちょっと笑ったような表情で

「さっきからずっと同じ返事だもん。ごめんね、でも、なんか笑っちゃう」

いかん いかんぞ。

実はさ、なんでこんな会話してるかって言うと。

ラジオのイベントが終わって、ベンチから立ち上がった時に、白いワンピース姿のソニーさんが手を振りながら俺の方へと近づいて来たんだ。

『初めまして パナさん。びっくりしたなぁ。まさかあの時のリクエスト返しした人も来てたなんて… ソニーです、よろしく』
屈託のない笑顔。笑うと目がなくなっちゃうのがまた新鮮で魅力的。

俺は何て答えていいか分からなかったよ。

想像してた通りの、素敵な女の子だしさ。
いや本当は想像してた姿なんて、ソニーさんを始めて見た時に消し飛んじゃったのだわ。
イメージが、今の彼女の姿に一気に上書き保存された感じ。

『あ、初めましてだね… 俺はパナです。よろしく』
笑顔返そうとして、頬が固まってしまいかなり妙な顔になっちゃったのは内緒だ。

俺たちはどちらからともなく、並んで駅までの道を歩き始めた。

女の子との会話って、そりゃマッキーや甲斐女子と会話することはあるけど、こんな感じで何か胸の奥が高まるようなシチュエーションって初めてなんで。

ほら、俺って年齢=彼女いない歴だろ?(知らんってばって?)

隣に理想に近い女の子と、肩並べて歩くなんてもう無理だよ。

「あ、ごめん。なんか緊張しちゃってさ…」

それでも俺は、精いっぱいのパワー振り絞ってたんだなぁ… うん


「そうなんだー でもね、パナさんのラジオネームってあれでしょ?パナソニック…のパナじゃないの?」

ビンゴです。はい。すみません。
あなたがソニーってラジオネームだから、それから連想して無理やり付けたのが”パナ”
もちろん東芝でも日立でもシャープでもよかったんだけどさ。

なんて言えなくて、あわあわと口ごもったりした。
お互いの間に、無言の時間が流れていく。

俺は恐る恐る彼女の横顔を盗み見る。
舗道の横を流れる運河の方を見ているソニーさんは、顔が麦わら帽子で隠れていて表情が分からない。

『会話もできねーコミュ障だとか思われてるだろうな… ま、しかたねーか。第一その通りだし。』

それからの俺たちは会話もなく、駅までの数分を並んで歩くことだけに費やしたんだ。
なんだか焦ってるような、でもそれでいて楽しい、矛盾した時間が俺たちの間を吹き抜けていくのが分かったよ。

「あ、私は上りホームなので… パナさんは?」
「俺は下りホームなんで…」
「そっか… じゃ、気を付けて帰ってね」

改札を抜けたところで俺たちは別れなきゃならなかった。
彼女は階段を上がって向いのホームに行く。
俺はこっち側のホームだ。

「ありがと、じゃあ…」

ヘタレの俺は、連絡先を聞くこともできずに、手を振った。
いよいよお別れか。
てか出会いって感じでもなかったんだけどな。素敵な出会い…って、そう思ってたのは俺だけだろうしって。

彼女が背を向け、階段を上がり始める。
逆光のなか、ソニーさんの靴音だけが俺の耳に響いてくる。
俺は、何もできずに黙ってその姿を見送っていた。

その時だ。

身体が揺れた。
めちゃくちゃ大きく揺れた。

目眩のような振動で、激しく上下に揺さぶられるのを感じた。
慌てて周囲見まわすと、吊り下げ広告が激しく揺れて、地鳴りのようなすごい響きが聞こえてきた。周囲の人たちもしゃがみこんだり、よろめいたりして。

地震だった。
それもかなり大きめの、揺れを伴う地震。

周囲から、誰のものともわからない叫び声が聞こえる。

ソニーさんは? 大丈夫か?
彼女が上って行った場所を振り返った時だった。

その時、白い影が階段を転げ落ちていくのが見えたんだ。

俺は夢中で走った。

「ソニーさんっ!」

大声で叫んだのは、ほんと真面目な話、無意識だったよ。

ソニーさんの被っていた麦わら帽子は吹っ飛び、階段半ばから転げ落ちて床に倒れ込んでいるのが見えた。
俺は反射的に彼女の傍に走り寄る。今考えたら、本当はそのころには揺れは収まっていたんだけど。
すっげー長い時間のように感じたけど、実は30秒程度の話だったらしい。

彼女は階段の下に倒れている。
揺れは既に収まってはいた。ざわめきの中、俺はソニーさんを抱き起こした
「だっ 大丈夫ですかっ?」
夢中で呼びかけると、彼女は薄っすら目を開けて

「うん…大丈夫… んっ!!」
腰を押さえて蹲る彼女。こめかみから一筋血が流れているのが分かって、俺は逆上したらしい。(後になって思い出すとね)

周囲見渡し、茫然と突っ立っている若い駅員に向かって
大声で叫んでたんだ。

きゅっ、救急車呼んでください!

(続く

アバター
2024/10/03 05:45
いきなり地震にはビックリ!!
普通に駅でお別れ…と思ってたので急展開に。。。
この先が気になります。
アバター
2024/09/30 08:06
え?う~ん。凄いね。
完全に彼女にもってかれたな~って思ってた前半は。
でも、地震?
も~連絡先きかないからとかなんとか思ったりして。。。
や、どうなるんだろう続き。。。




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