Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


深淵の中の蝶

第十六章

…?誰だろう、こんな時間に…不思議に思いながら「はい」とインターホンへと出る。モニターには悠さんが映っていた。「…あ、こんにちは、悠です」…「あっ、はい、今出ますね」そう彼へと伝えた後、玄関を開ける。「…こんにちは、すんません、来るの早かったっすよね…」…「あ、いえいえ、そろそろ私もお鍋の準備しようと思っていたので…」余りの驚きと嬉しさを隠すのに精一杯になった私だ。彼は、少し恥ずかしそうに「…なんか由佳里さんに会いたくなっちゃって…」とスーパーで買い物をしてきたであろう袋を持っていた。「あー…そう、なんだね…」…「すんません、なんつーんでしょうね、分かんないっすけど、そわそわしちゃって…はは」…「ふふ…そうだったの…実は私も悠さんに早く会いたかったです」…なんだかお互いの気持ちを探り合うかの様に話し始めた。…「兎に角上がってください」…「あ、はい…」…「お邪魔します」そう言って彼は私の部屋へと入ってきた。…「もうお腹空いちゃったの?」…少しお道化た様に私は彼へと言葉を発した。「…いや、はは…なんつーか…まだ腹は減ってないんすけど、由佳里さんと話しながら料理したくて…ははは」…「そうなんだね、ありがとう」…「いえ、ご迷惑じゃなかったっすか?」…「全然大丈夫だよ、気にしないで、買い出しもありがとう」…「いえいえ、全然っすよ、このくらい」…「そう?助かったよ、ありがとう」…「こちらこそ、押し掛けるみたいな感じになっちゃって…すんません」…「いえいえ、全然…煙草でも吸おうか、一緒に」…「ありがとうございます」…「適当に座って」…「あ、うす」…彼の買ってきたスーパーの袋を受け取りつつ、キッチンにある灰皿を彼の元へと持って私は「何か飲みたい物はある?」…そう尋ねた。「あー買ってきました、コーラ…はは」…「そっか、少し待っててね、取ってくる」…彼が買ってきた袋の中を探し、コーラとミルクティーを見付け、「ミルクティーはおかわり?」と聞く。「あぁ…それは由佳里さんにっす、ミルクティー好きっすか?」…「一番好きかも…良く分かったね」…「只の勘っすね…ははは」…「それじゃあ、お言葉に甘えて頂いても良い?」…「勿論っすよ、一緒に飲みましょ」彼の心遣いがとても嬉しかった。私はスーパーの袋からコーラとミルクティーを取り出し、彼へとコーラを手渡しながら、彼と向かい合わせに座った。「煙草吸おうか」そう彼へと聞くと、「部屋で吸っても良いんすか…?」…「うん、大丈夫」…「なんか申し訳ない気もするんすけど、本当に大丈夫っすか?」…「平気だよ…ふふ」私は彼の何気ない気遣いが好きだ。「さ、煙草吸おう」…「うす」お互いに煙草を取り出し、お互いのペースで煙草へと火を点け、吸い始めた。彼は唐突に「由佳里さんって煙草が似合いますよね」…「え?…そう?」…「うん、なんかすげーしっくり来てる」…「それは悠さんも同じだよ、煙草吸ってるのが似合ってる」…「そーっすか?」…「うん、似合ってるよ」…「あざす」…「いえいえ、ふふ」柔らかく揺れる煙同士が複雑に絡み合う様に煙草を吸った。そんな空間が私には心地良くも感じられる時間だった。その後、止めどない何気ない会話が続く時間だった様に思う。




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