Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


深淵の中の蝶

第十七章

一頻り、彼との会話と煙草を楽しんだ後に、「お腹空いてきちゃったね…」…「そうっすね、一緒に鍋作りましょうか」…「そうだね」…「白菜と豚バラのミルフィーユ鍋っす」…「良いね、美味しそう」…「俺はなにをしたら良いっすか?」…「んーそうだなぁ、私が食材切っていくから、そこの鍋に敷き詰めていって貰える?」…「了解っす」…「ありがとう、じゃあちょっとエプロン持ってくるね…悠さんもエプロン必要?」…「あー俺は大丈夫っす」そう答えた彼は「手、洗っても良いっすか?」と私に尋ねた。…「勿論」そう答え返した私に「ありがとうございます」と言いながら手を洗い始めた。私は寝室にあるエプロンを取り、リビングへと向かった。エプロンを着ながら、「さて、一緒に料理しようか」と彼へと投げかけた。…「おす」返事を貰った後に私は白菜を刻みつつ、彼の買ってきてくれたお鍋の元に目が行った。「豆乳ごま鍋…」何となく呟いてしまった私に対して彼は「…お嫌いでしたか…?」…「ううん…お鍋の中で一番好きな味かもしれない」…「そうすっか…良かったっす」そんな他愛もない会話を続けながら、白菜を刻んでいく。あっという間に白菜は切り終えた私は、豚バラを切ろうと取り出した。豚バラは食べやすいサイズにカットし、「それじゃあ、食材達をミルフィーユ状に並べて行こうか」…「そうっすね」…彼は手慣れた感じで綺麗に白菜と豚バラを並べていく。私は洗い物をしながら、「凄く手慣れてるんだね」…「ある程度の一人暮らし歴は長い方だと思うんで…はは」…「そっか、悠さんは今幾つなの?」…「俺は今23っすね」…「そうなんだ、私とそんなに変わらない…私は25」…「そうなんすね、由佳里さんってなんだか大人っぽいんすね」…「25には見えない?ふふ…老けてるのかな」…「いや、なんかそーゆーんじゃないっす、決して…なんつーか、綺麗って言った方が合ってんのかもしんねーっす、落ち着いてる感もあるし、安心感?みたいなのも感じてるんで…なんか恥ずいっすね…ははは」…彼は綺麗に白菜と豚バラを丁寧に並べながら、ふんわりと気恥ずかしそうに笑っていた。並べ終えた様で、彼は鍋つゆをたぷたぷと注いでいた。「後は煮込むだけっすね」…「うん、ありがとう」…「ゆっくりと煮込んでいこうか」…私がそう言うと彼は豚バラでべとべとになったであろう手を洗っていた。…「簡単な料理っすけど、なんかすげー楽しかったっす」…「そうだね、私も楽しかった」…「少し煙草でも吸おっか」…「うぃっす」…彼を座る様に促した私も彼の目の前に座り、お互いに煙草へと火を点けた。彼と吸う煙草は、私にとっては何故か居心地が良く、時間があっという間に過ぎる時間でもあった。「あの…由佳里さんさえ良ければなんすけど…また抱き締めさせて貰っても良いっすか?」…「あ、うん…良いよ」…彼は咥え煙草をしたまま、私の背後へと回り、私をふんわりと柔らかく包み込んだ。「すんません…気持ち悪くないっすか?」…そう尋ねる彼に対して、どうしてなのか嫌悪感を抱かない彼に「全然大丈夫」そう答え、咥え煙草をしている彼の元へ灰皿を置いた。煙同士が重なる。やんわりと交わっていく煙を見つめながら、私は「…落ち着くよ」…そう彼へと伝えた。「…俺もっす」そんな風に答えてくれる彼が何故か愛おしいと思う様になっていた。
ぐつぐつと煮えていく鍋の音と、二人の煙がとても居心地が良い。私は彼が今どんな顔をしているのかが気になり、ふと後ろを振り向いた。彼はとてもリラックスしているかの様な表情で、目を閉じていた。…恋人さんを思い出しているのかな…優しい雰囲気を纏った彼に段々と心惹かれていく。そんな風に感じざるを得ない心境の夜を過ごしていた。




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.