Nicotto Town


物書きに書かれたもの


合唱「時を越えて」

まさか、ただの中学校の文化祭で泣きそうになるとは思わなかった。


もともと、あの合唱曲は好きだから楽しみにしていた。のだが、自身の出番が終わって一安心したのもあって、浅く眠りかけていた。しかし聞きたい。必死に眠気に抗って鑑賞していた。

このクラスは、「時を越えて 羽ばたいて」という、最後の歌詞を大事にしていた。合唱曲ポスターの開設にも、合唱曲紹介時にも、そのフレーズに触れていた。よほど力を入れているのだろうと期待していた。

ついに歌が終わる。彼らの一番の思いが届けられる。そう思って胸を躍らせて待った。___その時、真っ白な翼が見えた。ウトウトとしていたせいもあるだろうが、確かに見たのだ。大きな、たくましい翼だった。「羽ばたいて」という言葉の通りに、飛び立っていった。

白い翼の正体は、指揮者のいっぱいに広げられた腕だった。洗練された澄んだピアノの音色、思いが一つになった力強い歌声。それらを操ってまとめ、観客に届ける指揮……。実に美しい一瞬だった。


歌が好きなのはいいことだと、つくづく思う。心が豊かになる。花に水をやるように、感動は心に潤いを与えてくれる。
今日のことはいつか忘れてしまうかもしれないが、音を楽しむ心は忘れたくないものだ。




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