アンデルセンの昔から
- カテゴリ:自作小説
- 2024/11/09 19:41:20
ここは、マカマカイのザギン山の山頂にある「ルイ・ルシラム」の屋敷『ルシフェリウム』。
アンデルセンの昔から、ルイ・ルシラムは、ミカル(ミカエル)を想い続けている。ルイは傍らに置いてあるミカエルの翼から抜け落ちた「透明な羽」を手に取り、優しく口づけをする。
ほんのわずかに残ったミカエルの匂いを鼻先に感じながら、あの時の戦いのことを思い起こす。
ルシフェル(ルイ)が天使の軍勢を率いて、テンテンカイに反乱を起こした本当の目的は、
ミカエル(ミカル)をテンテンカイの思惑やしがらみから解放し、自由に生きられるように、
そして、ミカエル(ミカル)を振り向かせて我が物にするためだった。
「透明な羽」は、いわば ミカエルの魂の抜け殻。あの時、もうすでにミカエルの生命は尽きていた。
ミカエルが光となって天に昇ると同時に、ルシフェルは地に堕とされた。その時に掴んだ透明な羽。
その「ミカエルの透明な羽」を、ルイ・ルシラムは今でも大事に持っている。
新月の夜の天使、満月の夜のサキュバス…どちらのミカルも美しい。昔のままだ。
雪でいつも白いザギン山の下には、雪原地帯のシースー平原が広がっている。
新月の夜、そこで天使に変身したミカルは、ロキに絡まれていた。
(ロキ・ミザール・アルコル…名門・温室育ちのプレイボーイ魔族め!)
ルイがロキをやっつけに行こうと思ったら、ハイエルフの奥さんのユミコが現れて、
「イザナミキーック!!」と言いながら、旦那のロキに飛び蹴りをかまして、ロキを引きずって帰っていった。
呆気に取られてキョトンとしている天使のミカルを残して。
朝が来て、ミカルの背中から天使の翼が消え、衣服も元に戻り、人間に戻った。
永遠に咲き続ける桜「クォン・トワ桜」の木の下で、ミカルが天使に変身した時も、ロキが絡んできた。
前のザギン山のシースー平原の時に、ロキはミカルの感じる所をすでに見極めていた。
(ロキの奴、昔の私と全く同じ責め方をしやがって…!ガッデム!!)
ルイがロキをシメてやろうとクォン・トワ桜へ行ったら、今度は「タケル・イズモ」である。
タケル・イズモ…左遷先の「東の島国」でミカエルが出会ったというスサノオ族の男。
(ジーザス!! この男はこともあろうにミカエルに「ミカル」という名前を与えて、ミカエルを堕落させた!)
ロキは双子の兄のセトに「お兄ちゃんがたっぷり慰めてあげるね」と言われ、実家に連れて行かれた。
そして、看護兵のマリア・アレックスも、ひっそりとクォン・トワ桜の木の下から立ち去った。
タケルを殺してミカルを手に入れようと思ったルイだったが、
クォン・トワ桜の木の下で、タケルと仲睦まじく語らうミカルの幸せそうな顔を見て、思いとどまった。
今夜は満月。しかも、黄金の秋の満月「ハーベストムーン」が昇る夜だ。
「ちょっと出かけてくる」「ルイ様、どちらへ?」
ルイ・ルシラムに声を掛けたのは、サキュバスの『リリー・オハラ』。「マリー・オハラ」の姉だ。
かつて、ミカエルと戦い、地に堕とされ、白き翼をもがれ、堕天する苦痛に苛まれて、
マカマカイで倒れていた所を介抱してくれた。
その時からリリーは、ルイ・ルシラムのそばに居る。
「たまには、ケモナモフ地方のお盆まつりを見物しようと思ってな…」
ここは、大モフモフまつりの会場から少し離れた所にある「モミコ平原」。
季節に合わせて色とりどりの落ち葉が舞う素敵な平原。特に秋が見頃。
今夜はマカマカイのお盆「ハロウィーン」の季節。
黄金の秋の満月「ハーベストムーン」が出る夜は、
モミコ平原の落ち葉の色も、イエロー・オレンジ・パープルとハロウィンカラーの三色にお召し替え。
「おい、ミカル…大丈夫か?」「タケル、少し下がってて。そろそろ始まるわ…!」
ハーベストムーンの月の光がスポットライトのようにミカルを照らす。
ミカルの足元が宙に浮き、月の光と踊る。バレリーナのようにステップを踏む。
「ああっ!」
ミカルが呻き声をあげ、大きく背中を反らすと、
ミカルの衣服が、黒皮ボンデージでハイレグのセクシーな衣装に変わり、
サキュバスの翼が生えて、バッとはためいた!
ハーベストムーンのまんまるお月様をバックに、サキュバスになったミカルのシルエットが浮かぶ。
「バットガール…いや、シャドウレディか?」
どうやら、タケルには今の光景が「バットマンサイン」に見えたらしい。
「キミは『サキュバス』も知らないのかね?スサノオ族のタケル・イズモくん」
「だ、誰だっ!?」
「ミカル。昔、キミは天使からサキュバスになっていたんだよ…満月の夜が来るたびにね」
「あなたは…ルシフェル!?」
「覚えていてくれたのか?嬉しいよ、ミカル。今は『ルイ・ルシラム』と名乗っているがね…。
さぁ、ミカル。サキュバスになった今、男が欲しくてたまらないだろう?」
「やめろ!ミカルに何をする気だ!」
ミカルの前に出てルイを制止するタケル。
「タケ…ル…っ」「ミカル!?」
ミカルはタケルの背中にしがみつく。
「タケル…っ、お願…い…っ、もっと…強く…っ、抱きしめて…っ!」
ミカルはタケルに抱きしめてもらうことで、自身の内側から湧き出るサキュバス特有の欲求に耐えようとした。
「ミカル、一体 どうしたっていうんだ!?」
「ミカル・ヒダカ!よくも、私のロキ様を!/ルイ様を!この泥棒猫サキュバス!」
同じような声をした二人のサキュバスが同じような台詞を言いながら、ミカルに襲いかかった!
「ミ・カ・ル・さ~~~んッッ!!!」
そこへ小柄な看護兵が猛ダッシュして飛び込んできた。
「マリア!?」今度はミカルとタケルがハモる。
マリアは、大きなガラガラのような鈍器「ドリーミンキュアーロッド」で、マリーとリリーの攻撃を受け止めた!
「ああ、もう!ガランガランうるさ~い!! いきなり出てきて何なのよ、あなた!?」
「マリア・アレックス!また邪魔をして!あの時、あなたさえいなければ…!」
「あなたたち!どうして、ミカルさんを殺そうとするんですかぁ!?」
「それはこの前の満月に説明したでしょ!?(これだから、天然ニブチンおこちゃま看護兵は…!)」
「下がれ!リリー・オハラ!」「そこまでだ…っ、マリー」「ルイ様!?/ロキ様!?」
ルイの制止とロキの登場は、ほぼ同時だった。驚きハモるオハラ姉妹。
「これ以上、ミカルに危害を加えようものなら、私も黙ってはいないぞ…!」
「しかし、ルイ様!」
「下がれ!同じことを二度言わせるな…!」
ルイの目が完全に座っている。リリーはモミコ平原から飛び去っていった。
「ロキ様!大丈夫ですか?」
「私のことは…っ、あ…っ!」
「ロキ、また私から逃げ出して…イケナイ子だ」
「セト…っ、…お、お兄ちゃん…っ」
「あとで、たっぷりお仕置きをして…ん?そうか…今日は満月か。
なるほど、どおりで…マリーの気が異常に昂るワケだ。
いいよ?マリー、ロキと一緒に二人まとめて可愛がってあげるよ♡」
「ああ、セト様…っ♡」
「じゃ、そういうことで。お邪魔しました~♡」
セトはロキとマリーを連れて瞬間移動で立ち去った。
マカマカイの夜が明ける。ミカルのサキュバスの翼は消え、衣服も元に戻った。
「次は、新月の夜にまた会おう…」
ルイも瞬間移動でモミコ平原を立ち去った。
「やっと見つけたぞ!マリア!」「トリオンさん!」
トリオンがようやく追いついてきた頃には、すでに事が終わっていた。
ぐぅーっ。マリアの腹時計が12時を指した。