看護兵は木枯らしまりあの夢を見る
- カテゴリ:自作小説
- 2024/11/12 18:00:44
マリアたちは、まつりの会場に戻ってきた。だが、大モフモフまつりは、すでに終了。撤収済み。
「あううぅ~、屋台のドーナツもベーグルも食べ損ねてしまいましたぁ~」
しょんぼりするマリア。その返事とばかりに腹の虫が盛大に鳴った。
「あっ!兄貴!マリアさん!やっと見つけた!」
軽装の甲冑を着た女の子「ビリオン」は、トリオンとマリアを見つけるなり駆け寄ってきた。
「ビリオン!」と、トリオン兄貴。
「もう!今までどこに行ってたんだよ~!急がないと、バンブルの最終便が出ちゃうよ~!?」
「マカマカイ方面 イカリ食堂行き~!まもなく、発車しま~す!」
大型バスに化けたバンブルは、電車のアナウンスをしながら、タヌキのシッポをフリフリしていた。
ここは、イカリ食堂。
「へい!らっしゃい!」「あらよっと!」「へい!お待ち!」「毎度!また来てくんな!」
と、気風の良い店主の親父「ドハツ・テン」の江戸っ子言葉が飛び交う活気溢れる大衆食堂。
大モフモフまつりが終わり、朝御飯を食べている人たちで店内はごった返していた。
「ごちゅうもんは、おきまりですか?」
ドハツ・テンの幼い娘「キッショウ・テン」が、氷水が入ったコップを4つ置きながら、注文を承る。
「キッショウ、ここは母ちゃんがやるから。アンタはアリアちゃんやピノちゃんたちとお外で遊んでおいで」
「で、でも…」
「ほら、ヒメちゃんやマーくん、チュチュちゃんも…みんな、店の外で待ってるよ。行っておやり」
「…うん、いってくる!」
キッショウは、前掛けを母の「マリシ・テン」に預けると、店の外で待っているピノたちの所へ駆けていった。
「ピノちゃんも大モフモフまつりに来てたんですねぇ~」と、マリア。
「ああ、御両親のタバサさんとジグルードさんと一緒にね。ブランちゃんもノエルちゃんも元気そうで何よりさ。
おや、注文がまだだったね?」
「アンタ!『オロシアン・シェキナサニー』だよ!」「あいよ!オロシアン・シェキナサニー、一丁!」
妻のマリシ・テンが夫のドハツ・テンに注文を伝える。
数分後、マリアたち4人が頼んだ物がテーブルに並んだ。
「ヤマタノオロシ定食の方」「ああ、オレだ」
女性店員「ユキネ・イチイバル」が、タケルの前に『ヤマタノオロシ定食』を置いた。
ヤマタノオロシ定食は、8種のメニューで構成された和定食だ。
御飯と味噌汁と大根おろしは固定で、あとの5種は自由に決められる。
タケルは、ハンバーグ、エビフライ、きんぴらごぼう、レンコンの天ぷら、香の物にしたようだ。
「ロスト・アンデルセン定食の方」「はい、私です…」
女性店員「タカネ・フォースカイト」が、ミカルの前に『ロスト・アンデルセン定食』を置いた。
ロスト・アンデルセン定食は、トースト、ワッフル、パンケーキの中からひとつ選ぶ。
ミカルは、ワッフルを選んだようだ。そして、どれを選んでも、上に「あんバター」が乗ってくる。
サラダ、キッシュ、フルーツ、紅茶もセットでついてくるワンプレートモーニングだ。
「シャケナベイベー定食の方」「俺だ」
男性店員「アカツキ・ゲイナー」が、トリオンの前に『シャケナベイベー定食』を置いた。
『シャケナベイベー定食』は、ごく普通の鮭定食だ。
ちなみに、焼き鮭に使われている鮭は「シャケナシャケ」というマカマカイ原産の鮭だ。
「お待ちどう、サンライズ丼定食だよ」「はいっ、ありがとうございますぅ~!」
下町風のおっかさん「マリシ・テン」が、マリアの前に『サンライズ丼定食』を置いた。
『サンライズ丼定食』は、目玉焼き丼がメインの丼定食だ。
丼飯に乗る目玉焼きの焼き方はサニーサイドアップ、蒸し焼き、ターンオーバーから選べる。
マリアは、サニーサイドアップ派のようだ。
あと、味噌汁と香の物、サラダ、ソーセージ、ベーコンがセットでついてくる。
「ごちそうさまでしたぁ~」
昨夜は夕食抜きの上に軽く運動したのもあって、マリアは、あっという間にサンライズ丼定食を平らげた。
お腹いっぱいになって人心地ついて、マリアは、うつらうつらと舟をこぎ始めた…。
「勝~って嬉しい 花いちもんめ♪」「負け~て悔しい 花いちもんめ♪」
ぴのたちが「花いちもんめ」をしている。
「おい!木枯らしまりあ!とっとと起きやがれ!いつまで寝てやんでぇ!」
「あ、とりおんさん。おはようでござんすぅ~」
「おはようでござんすぅ~、じゃあねぇ!もうお昼だぞッ!早く出立しねぇとお宿につかねぇだろうがッ!」
「路銀がスズメの涙なので「すずめのお宿」にお泊りでござんすかねぇ~」
「馬鹿野郎ッ!上手いこと言ってんじゃあねーよッ!」
「ところで、みかるさんとたけるさんは、どこに行ったんでござんすかぁ?」
「ああ、あいつらはとっくの昔に「まかまかい潘」に帰っちまったぞ」
「そうでござんすかぁ~。サヨナラを言いたかったのに…」
「サヨナラだけが人生だ」
「幕末太陽傳?」
珍しくツッコミ役に回る木枯らしまりあ。何で「幕末太陽傳」を知ってるの?
「とりおん、渋いねぇ~。まったく、おたく 渋いぜ…渋すぎて柿が食えないぜ」
「誰だッ!?」
「まぁ、ぶらんさん!今日も牛若丸の恰好がキマってやすねぇ~」
「出たな!? 海魔女の笛吹き童子「ぶらん」め!木枯らしまりあは渡さんぞッ!」
「まりあ、あんな素浪人や牛若丸もどきはほっといて、私と一緒に旅籠(はたご)で遊ばないか?」
「ろきさん?」
天草四郎のような格好をしたろきに壁ドンされても、木枯らしまりあはキョトンとしている。
『いざなみきーっく!』「舟を編む~!!」
くノ一の奥方「ゆみこ」は、いつものように旦那の「ろき」を蹴り倒した。
「さすが、くノ一。見事な蹴りだな、ゆみこ」「褒めたって何にも出ないわよ、ろきくん!」
「あっしには関わりのねぇこって…で、ござんすぅ~」
木枯らしまりあは、とりおんもぶらんもろきもゆみこも置いて、先に進んでいた。
「あの子が欲しい♪」「あの子じゃ分からん♪」
「この子が欲しい♪」「この子じゃ分からん♪」
「相談しよう♪」「そうしよう♪」
「ひゅ~るる~、木枯らしが沁みやすねぇ~。あうぅ~、本当に寒いでござんすぅ~!」
三度笠に縞合羽の下は、旅人の着物とハーフ丈のズボン、スネの布当て、藁草鞋。そりゃ、寒いわ。
「私があっためてあげようか?ほら、こうすれば…あったかいだろ?」
ろきはまりあを後ろから抱きしめながら、自分の外套の中にまりあを入れて二人羽織状態になっている。
「いざなみきーっく!」「戦うパンチョ・ビラ~!!」
当然、奥方のゆみこに蹴られるろき。本当に懲りない御仁である。
「木枯らしまりあちゃんじゃないけど、ホントに寒いわね~!」
くノ一の忍装束は、布の面積が結構少ない。網タイツをつけても防寒にはならない。寒いはずである。
「それにしても、俺たち五人並んで歩くとすごい絵面だよな…」
三度笠の渡世人娘、セクシーくノ一、長めの黒い着物を着た剣客、まかまかいの天草四郎、笛吹き牛若丸。
「イザユケー!ボウケンシャー!って感じでござんすぅ~。糸、持った?リレミト、ルーラのMPは足りてる?」
「スタルトかロンドンブーツじゃないの?」
「まりあ、ゆみこ。一体、何の話をしてるんだ?」と、ろき。
「ドッグシステム、回収ビーコン、あなぬけのヒモ、テレポストーン…」
ぶらんが真剣な面持ちで脱出アイテムの名前を羅列する。
「お前ら、一体 何の話をしてるんだ?」
とりおんもろき同様、話についていけない。