Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


深淵の中の蝶

第十九章

お互いの部屋を交互に行き来し、お互いに抱き締めあう日々が1か月は続いていた。彼も職場には復帰し、すっかりと桜も満開の時期を迎え、温かな日差しも増えて来た。そんな頃、私の髪の毛も随分と伸びてきた為に、悠さんの働く美容室にでも行ってみようかな、とふと思い始めていた。何処で働いているのかは私は知らなかったが為に、今日の約束は悠さんの部屋に19時だったな、と思いながら、仕事を終えていた私は…今日、何処で働いているのかを聞いてみようと思い始めていた。ふと時計を見ると、時刻は18時半を少しばかり過ぎている頃だった。「そろそろ帰ってきてるかな」と独り言を呟きながら、今日一緒に食べるメニューは「確か、和食だったよな」と昨夜の事を思い出す。「あぁ、そうだ鯖の味噌煮だったっけ…」と思いを馳せる。…流石と言うべきか、男性にしては手の込んだ料理を作ってくれるんだな、とふと笑っている自分がいた。鯖は既に昨日の内に近くのスーパーへと行き用意していた。「…早く会いたいな」小さく零れた私の恋心は未だに彼には伝えてはいない。私は少し早いかなとも思いながら、いつもと違う香水でも纏ってみようと思い、ほんのりと柔らかでありつつも少しばかり甘い香りを選んでいた。いつもと違う香りにしても彼は私を抱き締めてくれるだろうか…ほんの少し心に痛みを感じたが、抱き締めて貰えなかった時はその時に考えよう…そう思う他なかった。「…まだ少し早いけど、悠さんのところに行ってみようかな…」そんな私なりの悩みを抱えつつ、15分程悩み抜いた挙句、時計は18時50分を指していた。「…10分位は…良いよね…?」と自分自身に言い聞かせるように、「よし、行ってみよう」と思い、冷蔵庫から鯖を持ち出し、隣のインターホンを鳴らすことにした。…「はい…あっ由佳里さん」と彼は私へと少し高めの声で「こんばんは、今出ますね」と私を快く出迎えてくれた。ドアが開き、「こんばんは…少し早目に来ちゃった」と少し羞恥心を抱いただ。…「いえ、全然大丈夫っすよ…どうぞ、上がってください」…「ありがとう」私は鯖の切り身を持ちながら、何処か滑稽な姿だな、なんて事を思いながらも彼の部屋へとお邪魔させて貰った。…「由佳里さん、今日はいつもと違う香りがしますね」…「あ、そう、ちょっと違う香水にしてみたんだよね」…「その香りも由佳里さんっぽいっすね」…「そ、そうかな…あはは」少しばかり「私」を意識して貰いたかった自分に、不安を抱きつつも彼の部屋へと足を運ぶ。「…お邪魔します」…「どーぞ」にこやかに笑ってくれる彼に私は少しだけ心の動揺を収める事が出来た。…「適当に座ってて下さい…鯖貰っちゃっていいすか?」…「あ、うん」と彼へと鯖を手渡す。「何か手伝える事ある?」私がそう尋ねると、「鯖の味噌煮なんて簡単なんで、煙草でも吸っててくださいよ」そう答えが返ってきた。「ありがとう」…私は彼の優しさに甘えるかの様に、煙草へと火を点けた。いつも通り恋人さんが見える場所に座りながら、漂う煙が何故か儚く見えた。彼は咥え煙草をしながら料理をする事が多かった。
そんな彼を見つめる時間が私は好きだった。手際良く料理をしている姿にも見惚れてしまう程。今日は彼の働いている美容室を聞くんだったと我に返る頃、鯖の味噌煮はあっという間に完成していた。「由佳里さんは、米食います?味噌汁もあるんすけど…」…「あ、私は鯖だけで良いかな、ありがとう」…「了解っす」…悪い事言っちゃったかな、とは思ったのだが、彼は気にする事もない様子で、ふーんふーんと鼻歌まで歌っている。そんな彼を見て私は「ご機嫌だね」と声を掛けた。「ははは…なんか楽しくなっちゃいました」と笑っていた。彼はご飯と味噌汁を用意し、一緒に食事を取る事になった。                                                                                                                                                                                                                                                

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2024/11/24 19:35
いつも好き勝手な感想を書いてしまって
かえって「そうじゃないのに!」等 不快な思いをさせてしまっていないか
ちょっとドキドキしながら書かせてもらっています

でもついつい感想を言いたくなっちゃうお話なんですよね
紫音さんほんと描写が上手くて感情移入しちゃいます

美容師さん きっと指先が器用な方が多い職種なのでしょうね
お話しながら料理なんて今の男性はできちゃうのでしょうか
一緒にいることが日常になってきたような日々 
傷ついた二人を知ってるからこそ尊く感じます
傷が癒されると良いなあって思いながら読ませてもらっています

いつもお話公開ありがとうございます
無理せずゆっくり書いてくださいね(*´꒳`*)



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