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ネタばれ読書日記『蜘蛛女のキス』

『蜘蛛女のキス』著プイグ

評価★5/5

一応あらすじ
主に二人の男の会話から成る物語。
夜の監獄の暗闇で映画のあらすじを語り、時々身の上話をするうちに二人の間に信頼が生まれる。実は映画の語り手のモリーナは刑務所所長の命令で政治犯のバレンティンを篭絡するという目的があった。しかし情の深いモリーナはバレンティンの仲間の情報を黙ったまま釈放される。所長はモリーナに監視を付けていた。モリーナはバレンティンの仲間と接触する直前に狙撃される。一方、拷問を受けたバレンティンは夢の中でかつての恋人と映画の世界を歩き蜘蛛女(モリーナ)に出会う。

突然だがシナリオ本が好きだ。
何故なら①本になるのは評価された作品のためハズレがない。②主要キャラクターが限定され、それぞれの性格が明確。③演劇なら大抵中編の小説本の厚さで簡単に読める。
というわけで、県図書館で演劇シリーズを発見した時、連続して読んでいたことがある。その時に取った一冊が「蜘蛛女のキス」。少し読んでみると二人の人間がいて一人が映画のあらすじを語る。内容は『キャットピープル』。人の皮が破れて豹になるリメイク版ではなく白黒映画のほうらしい。キャットピープル? 蜘蛛女じゃないの? と疑問に思ったことは良く覚えている。しかし、それから本を読まずにシナリオシリーズを読破できなかった理由は今となってはわからない。
で、ひさしぶりの古本屋で原作らしい「蜘蛛女のキス」を発見。あ、これが原作か、と読んでみて驚いた。
映画のあらすじを語るモリーナ、罪状は「青少年を堕落させた罪」。聞き手のバレンティンの罪状は反政府活動。もちろん二人とも男性。モリーナは同性愛者でかなり【モテる】らしい。実は刑務所所長が刑期短縮を餌にバレンティンにハニートラップを仕掛けるようにモリーナに命令していたのだ。(@_@)・・・会話だけで何となく二人の距離が近くなるのはわかるけど、会話だけなので何をしているのかわからないという内容に衝撃。
モリーナが語り、たまに回想する映画によって二人の関係や状況が暗示される。
映画は次の通り
①『キャットピープル』内なる魔性におびえ、男(夫)と関係を持てない女
②オリジナル ナチス宣伝映画 悪のレジスタンスにより女が殺されるが将校は己の正義のために歩み続ける。(直前にバレンティンが昔の彼女の話をしているので、バレンティンの活動が完全な正義ではないこと、バレンティンの孤独を暗示している?
③『愛の奇跡』とあとがきで紹介されているが邦題は『魅惑のコテージ』と思われる。醜い現実ではなく愛によってお互いが美しく見える夫婦。(現実逃避?)
④オリジナル ゲリラの起こした誘拐事件をきっかけにゲリラと活動を共にする青年と自分の世界に戻っていく女。(バレンティンと元カノ?)
⑤『甦るゾンビ女』呪いから逃れられず身を亡ぼす男とすべての事件が終わった後、旅立つ女。(モリーナの釈放が決まる)
⑥『大いなる愛』とあとがきにあるがメキシコを舞台にした映画でネットに情報なし。愛を貫くも、男はすべてを失い病死、女は男を支えるため一度娼婦に身を堕とし、男への愛を胸に歩きだす。

洪水でまったく立場の違う二人が小舟で漂流するという話を読んだことがある。小舟が小さな世界で、その中で協力して生き、陸地に戻れば二人の関係は呆気なく終わる。小舟はモリーナとバレンティンの場合は監房だったのだと思う。ただし二人の関係を終わらせたのは残酷な世間なのだ。




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