【第15話】シン・ラジオ・ガール
- カテゴリ:自作小説
- 2024/12/30 10:45:27
「えっと… ソニーさんの家って、けっこーハイクラスなんですね…」
馬鹿か俺は。そんなこと言ってどうする。
相手に引かれたかもしれないだろ。
昼下がりの川沿いの道を、俺は意外なことにソニーさんと二人で並んで歩いていた。避暑地だから陽射しも都会よりは優しい。
「そんなことないよ。パナさんだって別荘来てたじゃないですか」
笑って此方を見上げるように、彼女が微笑む。
なんて可愛いんだ。
まるで天使だ。
「いや … 俺は…」
言い澱んだのに敏感に反応したように彼女は
「え?違うのですか?」
「ああ 俺は部活の合宿で、しかも共同合宿の相手方の手配で、ここに来たんですよ。自分の別荘じゃないんで」
ややどもりながらそう伝えると、彼女はそっと目線を外した。
「あ、だからですね。パナさん、
女の子いっぱい連れてきてた
みたいですし…」
んっ
んんんんんっ!!
やはり、バレてたかああああああ!
俺は内心でそう叫んでしまった(声は出してないぞ)
「いいなぁ、私なんて、せっかく別荘に来ても、一人だけなんですよ。あ、でも、”じいや”が同行してますけど ね」
じいや?
じいやってなんだろ?
まさか 使用人?
執事 みたいなもん?
この21世紀の御世に、「爺や」なんて存在があるなんて、まさに想定外だったからさ。
俺はその言葉にノーコメントだった。
************************************************************
唐突に鳴ったドアベル。
俺はある種の予感を持って、慌てて玄関に向かおうとする甲斐名都やマッキーを(てかなんでマッキーが出ようとするんだろって思ったけどね)押さえて出てみた。
想像してた通り、そこにいたのは、隣の別荘に避暑に来ていたソニーさんだったんだ。
しかも着替えててさ。きちんと高校生らしく夏制服姿でね。
俺はソニーさんの制服姿を始めて見た。
うちの学園は、女子生徒はブレザー+ブラウス+ネクタイなんだけど、彼女の学校は違ったみたい。
真っ白で、ステッチが薄いグレーのセーラー服だった。
「あ、パナさん… こんにちは」
「あ、ソニーさん…」
俺は何も言葉を繋ぐことができなかった。ホントにヘタレだわ(笑)
何とか背後をごまかし、俺はソニーさんを連れて外に出た。
いわゆる散歩だね。
俺は、彼女と並んで歩ける幸せに、ちょっと舞い上がってたみたいだ。
まさかこんなとこで
まさかソニーさんと…
俺たちは肩を並べて、せせらぎに沿って当てもなく歩いた。
会話は世間話の範疇を超えない。
次第に二人が無口になっていく。
だめじゃん こんなことでは…
マッキーはともかく、あの鋭い甲斐名都を振り切って来たんだ。なんとか少しでもソニーさんと進展しなきゃ…って気ばかり焦ってね。
気付くと、彼女が立ち止まってた。
俺は振り返って彼女を見た。
「パナさんって、モテモテ男子なんですね?」
そう照れたように笑って彼女が呟いた瞬間、俺は首が千切れるほど左右に振った。
「な訳ないでしょっ てかソニーさんのほうこそ、こんなに可愛いのにモテモテでしょう?」
ん
ん?
俺、余計な事言っちゃったかも… 後悔先に立たず、だ。
彼女の表情が暗くなったのが分かったんで。
「そんなことないですよ。ほら、私振られちゃったじゃないですか。ラジオのリクエストメッセージでそう読まれたんですけど?」
悪戯っぽく微笑んだ彼女がそう告げた時、俺はマジで後悔したんだよね。
なんだろ
マッキーや甲斐名都、そして調理同好会のメンバーの事なんて、その瞬間は一切脳裏に浮かばなかった。
もうバレバレだけど
俺はソニーさんに気持ち持ってかれてたんだよ。
こんな気持ち、初めてさ。
続く