小説『緑の天幕』
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/01/18 14:27:55
リュドミラ・ウリツカヤ 著
『緑の天幕』を読みました。
ロシア政府がウリツカヤ氏を「外国のスパイ」に指定した
というニュースを昨年目にしました。
見覚えのある名前だな と思って調べてみたら
数年前に読んだ小説『ソーネチカ』の著者でした。
現代ロシアを代表する作家でありながら
ウクライナ侵攻を真っ先に批判し
ドイツへ移住した現在も
反戦活動を続けているとのことで
勇気ある女性だなぁ と感嘆したのでした。
先日年末年始の休暇を迎える際に
お供にと本書を選んでみました。
スターリンの死の前後の
ソヴィエト時代のロシアで
3人の同級生の少年が
文学に精通した教師の指導のもと
友情を深め成長していくという話で。
3人の少年に3人の同級生の少女が加わり
更にこの6人と関係する人々の
エピソードが多重的に語られる
連作短編のような形でストーリーが進行します。
実在の有名な人物も登場するのだけれど
歴史に埋もれ忘れ去られていくような
市井の人々が主人公であり
彼らは自らの価値観に従い
社会に翻弄され
波乱多き人生を送ります。
彼らの幾人かは
個人の自由な思想を排し
巨大なシステムの歯車になることを強いる
国家への抵抗を試みます。
全体主義が掲げる理想と現実との乖離や
人権弾圧・宗教迫害・人種差別など
恐怖と不信感に彩られた社会の実態を暴く
記事・写真や詩・小説などを密かに編纂し
国内外へ発信する活動に携わります。
それら一連の行為に関わった人間
もしくは出版物を所持した人間に対しても
政権側は決して追及の手を緩めることなく
「異物」=国家の安寧を脅かすものとして
処罰していきます。
ある者は国を捨て海外へ脱出し
ある者は不屈の精神を以って耐え抜き
ある者は心を折られます。
ソヴィエト及びスターリニズムの
非人間的なありさまが
まざまざと浮かび上がってきて
読後は一言では表せない
あれやこれやの感情が渦巻き
深々と記憶に残る一冊となりました。
加えて本書に登場する
さまざまな文学や音楽にも触れてみたくなりました。
とりあえず心が弱ったときには
はちみつきんかんのど飴を舐めつつ
『平均律クラヴィーア』を聴いてみようと思います。
書評ありがとうございます。
『平均律クラヴィーア』聴いてみました♪