Nicotto Town


まったり時間。


春菊の天ぷら



なぜかたまに、食べたくなる。野草の天ぷら。

亡くなった母が揚げ物が好きで、料理のレパートリーが尽きてくると、庭に出て野草を摘んできて、天ぷらにしていた。

熱を出した時には、ユキノシタの天ぷら。

冬には買ってきた春菊を揚げて、

春にはドクダミの若い葉を。

ヨモギが見つかったらちょっと得意げ。

種を蒔いておいたモロヘイヤや、ツルムラサキ。

しゃくしゃくしたのに、ちょっと塩をふる。

ほかによく作っていたのは、ごぼうと納豆の天ぷら。わたしはこれが苦手で、

出されると、逃げていた。

匂いがちょっと耐えられなくて。

蒸した大根に衣をつけて揚げるのも、よく出されたけど、これも苦手で、

衣を全部はぎ取って、中身の大根だけ食べていた。

怒られたけど、体がかゆくなるので、どうしてもダメだった。

そのうち、母の物忘れが目立つようになってきて、

一週間ずっと天ぷらを出され続けた。

気持ち悪くなって、食べずにインスタントの味噌汁とか食べていたけど、

わたしが食べていない事には全然気が付いていなかった。

デイケアとか、行くようにしてもらって、

文句をぎゃあぎゃあ言われて、でも、

「一緒にお祈りしようね」

と、朝、聖書を読んで、祈る時間を取っていたら、

なんとなく、落ち着いてくれた。

誤嚥性肺炎になって入院して、そのあと施設に入って、一気に年を取ってしまったけれど、

「お祈りしてる?」と尋ねると、「祈ってるよ。ずっと祈ってるよ」

何の祈りだったのか。

何を祈ってくれていたのか。

思い出すのは、まなざし。声が出なくなって、でも、

しぼりだすように。祈ってるよ、と言ってくれた。

あんたのために、祈ってるからね、と。

明日は、春菊の天ぷらを作ろう。

しゃくしゃくしたのに、お塩をふって食べよう。





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