Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


最期の夜月

第八章

私は少し待ってといったポーズを取り、急いで歯磨きを終わらせ、肇さんに…「おはようございます、肇さん」と伝えた。彼はまだ体が温まっていないかのように、身体を摩りながら、ぼんやりと…「今日も少し冷えてますね…」とポツリと呟いた。…流石に長時間あの土砂降りの中で座り続けていたら身体も冷え切っているよね…と私の思考は肇さんの観察から入り、…「そうですねぇ、まだ寒いですよね」と言いつつ、ソファに掛けてあったブランケットを目にし、…「肇さん?ここに座って貰えますか?」と私もソファへと向かった。彼はとてもぼんやりしている様子で…「…あ、はい…」とすんなりと座ってくれた。私は彼へとブランケットを掛け、…「寒いですよね、今日」と伝えると、寝惚け眼の彼は「…はい…寒いです…」と素直にブランケットに包まってくれた。
私は少しばかり安心し、…「肇さんはお腹空いてますか?」と尋ねた。彼は何だか考える様に少しの沈黙を取り、「…んー…?お腹空いてるのか分かんないです…」と答てくれた。…成程な、と私は咄嗟に思い、「あの、私少しお腹空いてるんですけど、一緒に食事採りません?」と尋ねると、…「美月さんと食事…なんかお腹空いてきた気がします」とふんわりと笑って見せてくれた。彼はとても美しい顔をしていた。女性でも男性でも行ける、と言ったのが良く分かる程に端麗な容姿をしていた。…「それじゃあ、一緒に朝ご飯でも食べましょうか」と私が誘うと…「…はい」とまだ起きていない思考の中で答えてくれた。…「私の創作料理なんですけど、山菜うどんなんてどうですか?」と提案すると、彼はまたふんわりと笑い、…「美味しそう…」と言っていた。
…良かった、と私は彼に食事を採って貰えることに安堵し、煙草へと手が伸び、1本吸っていた。突然…「…僕が作りましょうか」と肇さんが言った言葉に対し、…もしかしたら「元」恋人にも同じような事をしていたのではないかとふと考え、私は…「ゆっくりで良いので一緒に作りましょうか」と提案してみた次第だ。彼は安堵しているかの様に、…「一緒に…作る…凄く素敵ですね」と私の提案に乗ってきてくれた。それと同時に考えていた事だが、…「肇さん、今日何か予定ありますか?」とバイトが無いかを確認した。あくびをしつつ彼は、「…今日は何も予定ないです…ふぁあ」とブランケットに包まりながら答えていた。…良かった、これで肇さんは「元」恋人と鉢合わせる事もないな、と私も彼と同じ様に安堵感に包まれていた。…「肇さんのペースで良いので後で一緒に山菜うどん作りましょ」と私は伝え、彼はいつの間にかフランクに変わっていく口調で…「…うん」と言っていた。私もそれに合わせるかのように、…「ねぇ、肇さん?」と軽く聞く。ぼんやりとした空気感の中…「…ん?…」と彼は返事をした。…「肇さんは、煙草吸わないの?」と尋た。…「…僕もたまに吸う」と答えてくれていた。
…「そっか、今煙草持ってる?」と聞くと、…「…うん、持ってる…」と昨日私の選んだ服のズボンのポケットへと手が伸びていた。…「あぁ、待って…多分そこにはないと思うから」と伝え、昨日着替えて貰った彼の服のズボンを探しに寝室へと私は向かった。
彼の寝ていた右側の場所に、綺麗に畳まれて服が置かれていた事に、きっと肇さんは「尽くす人」なのだろうと、再確認した私だ。昨夜着ていた服も全身黒だった。肇さんへと…「ズボン探るよー」と伝えると…「はぁーい」と言った何とも可愛らしい返事が返ってきた。肇さんの左側のポケットに煙草は入っていた。




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