Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(126)

 クリスが言葉を濁していたのは、この事、だったのか?…
 おそらくは、そうなのだろう。思い当たる節は、たくさんある。
 だが、クリスは、いつ、どうしてそれを知ったのか?…いや、そう思うようになったのは、なぜか、というべきか?
 「…大丈夫?」
 俯いて考え込んでいる俺の顔を、クリスに良く似た、但し幾分年を取った顔が、下から覗きこんでくる。
 「軽くめまいがしますが…精神的なものでしょう。…その、「継承者」とやらはめったに現れないような代物なんでしょうか?」
 「さあ…どうかしらね。何しろ「庭園」にしか判らないのだから」
 「…そんな、人を妙なもの呼ばわりしといて…」
 「私がそう呼んでる訳じゃないわ。だから、詳しい事を知りたかったら、「庭園」自身にお聞きなさいな。あなたが呼べば姿を現すと思うわよ。学院の中ならば、どこにでもいるんだから」
 「呼ぶ、って…どうやって?」
 契約している訳でもないのに。
 「…だ、そうよ。かなり動転してるみたいだから、姿を現してあげて」
 その言葉が終わるか終らないかのうちに、傍らに何かが立つ気配を感じた。そちらに目をやると、緑色で半透明な姿の…やはり先ほどの道案内、だ。
 「…「庭園」…?」
 その言葉が契機になった、のかどうかはわからないが、目の前の存在の持つ雰囲気が変わり始めた。何というか…薄ぼんやりと頼りなげなのが、急に輪郭がはっきりした、ような感じ。…というか、実際に輪郭がはっきりしてきている。
 「…その顔は、やめていただけませんか?…悪趣味だ」
 できあがった顔は、クリスのそれだ。
 ――おや。あなたの目に快く映る姿を選んだつもりでしたが…御不快でしたか?
 「同じ顔は、一つあればいい。…あ、いや…」
 ここにいるクリスの祖母も、よく似た面差をしている。
 「私も同感だわね。手っ取り早く人の顔を盗んで歓心を買おうとするのは…感心しないわ」
 ――盗んだ、などとは人聞きの悪い。かたちを映させてもらっただけなのに。
 そう言いながら、形がぼやける。再び取った形は、また別の女性の姿だ。
 ――これならば、今ある姿ではないし、人に不快に思われるような形もしていないでしょう。
 「私は不快ですけどね。あんたがたがその姿をしているのは。…でもまあ、私の事は気にするには及ばないけどね」
 不快、とは言うが、声にさっきほどの険はない。誰の姿だろう?
 …というか…あんたがた?複数いるのか?他のモノの姿は見えないが。
 ――全き姿でまみえるのは、久しぶりなので、気に入られようと思ったまでなのだが…なかなか注文が厳しい。「森」の主は。
 「何が主なものか。かわいい孫娘が援助を求めているというのに、あれらが眠っている間しかあれらから離れられないんだから。赤ん坊の親と大差ない」
 ――お言葉だが、「森」は主が不在だからとて、悪さをしたり勝手に危機に陥ったりはせぬと思うが?人の赤子と違って。
 …なぜかこちらを盗み見る。
 「人の子であれば、十年、二十年もすれば勝手に手を離れてくれるが、私はあれらにもう三十年近く煩わされているよ。…まあ、手を離れたからといって面倒事を持ち込まなくなる訳ではないけどね」
 どうしてここで育児談議になるんだ?傍観者の立場を崩さないクリストファーも面食らった様子だ。
 「…ああ、いけない。肝心の人が置き去りになっているわね」
 やっと、何のために目の前のモノを呼びだしたのか思い出したようだ。
 「何か、聞きたい事は?」
 「いきなり、丸投げですか?橋渡しも何もなしで」
 「だって、向こうはあなたがこーんなちっちゃい時から知ってるはずなんだもの」
 そう言いながら、手のひらを横に並べる。いくらなんでもそれは…
 ――いくらなんでも、そこまでは小さくなかったぞ?この者が生まれたのは、近いとはいえ、われらの領域の外なのでな。われらが見出した時には、既にだいぶ動き回れるようになっておったな。
 つまり…学院の外にいれば、感知されない、って事か?
 ――われらはこの場に縛られておるのでな、外の事は判らぬ。…先ほどの、「継承者」というのは、そんなに稀有な存在か、という問題だがな、それもわれらには判らぬのだよ。そのものがこの領域に足を踏み入れぬ限りは。
 「…そう、なんですか…」
 …あれ?さっきの疑問は、口に出しただろうか?
 ――故に…この者が頻繁にわれらの領域の外に出るようになった時は、ずいぶんと気を揉んだものだよ。外でこの者が損なわれはせぬかと思うてな。
 どうでもいいが、本人を前に「この者」っていうのは、やめてもらえないだろうか。

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