Nicotto Town



シーラカンス






東京にも雪が降って

人々は音のない世界の底で眠った

夜が明けると無言の約束のように

朝の光の中で雪かきが始まる

けれどもそこはいつまでも雪がなくならない


緩やかな坂を上りきった所にあるガラスの家

盛り上がって固まった雪を誰も掻こうとするものはない

そこはノックもせず入り

別れの挨拶もせず立ち去る

夜中ついている電灯の明るさで

足元の雪を溶かすこともない

凍えた心が震えたこともある

うつむいて泣いていた者もいた

喜びに肩を震わしたこともあった

今は訪れるものもなく

皆の記憶からも忘れ去られた


対話の上に雪が降って静かに積もる

そこはただ話すだけの場所

言葉をガラスの家は覆うので

外からはだれにも見えない

けれど、息のかすかなぬくもりが

ガラスの冷たさにふれて曇り

それらを集めて涙を流した


東京の雪はあたたかくて冷たい

そこはシーラカンスと呼ばれるのだろうか!










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