シーラカンス
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/05/21 21:13:50
東京にも雪が降って
人々は音のない世界の底で眠った
夜が明けると無言の約束のように
朝の光の中で雪かきが始まる
けれどもそこはいつまでも雪がなくならない
緩やかな坂を上りきった所にあるガラスの家
盛り上がって固まった雪を誰も掻こうとするものはない
そこはノックもせず入り
別れの挨拶もせず立ち去る
夜中ついている電灯の明るさで
足元の雪を溶かすこともない
凍えた心が震えたこともある
うつむいて泣いていた者もいた
喜びに肩を震わしたこともあった
今は訪れるものもなく
皆の記憶からも忘れ去られた
対話の上に雪が降って静かに積もる
そこはただ話すだけの場所
言葉をガラスの家は覆うので
外からはだれにも見えない
けれど、息のかすかなぬくもりが
ガラスの冷たさにふれて曇り
それらを集めて涙を流した
東京の雪はあたたかくて冷たい
そこはシーラカンスと呼ばれるのだろうか!