Nicotto Town



引き出し






机の引き出しを力強く引いたら抜けてしまい四角い空洞が笑いかけてきた

元あったものを戻すのは芸がない
同じような形をした別の何かを入れてみたい
そんな思いにとらわれた昨夜の夢を四角く切り取ってするすると入れてみた
昨日はあんなに輝いていたと思ったのにセピア色に色褪せてもう入らない
もう少し削らなくては無理だと眠りの番人が言う
もちろん僕は強く抗議した
寸法を測らなくてはならない夢ははたして夢と言えるのか
許可をもらわないと実現しない希望がもはや希望と呼べないように

ところで何のために引き出しなんか開けたのだろうか?
何か探しものをしていたのかな?                                        
僕の引き出しの中にあるのはガラクタばかり
間違ってもお宝鑑定団に出品できそうなものなど何もない
人生なんてそういうものなんだ!と例の番人の声がする

欠けた空洞は僕の思い出
ものはあるべきところを持っている
あるべきところに戻す礼節もわきまえないそんな大人にはなるなよと小さい頃に言われたような気がする
しかし勢いよく抜けてしまった引き出しはなぜかもう元には戻せないような気がする
最初からなかったような気さえし始めた
引き出しはもうどこかへ消えてしまったに違いないそう思うと
引き出しの空洞の奥はどんどん暗くなっていってなにか星のようなものさえ光り始めた
宇宙のような広々としたそこに何かが住みついてこっちの世界をじっと見ている






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