Nicotto Town



9段 私、先輩になる


あれからしばらく、私はK先輩と話していない。
何があったのかって……?

実は、この前の県の発表会のとき、私が勝手に楽器を組み立てて、持ち出してしまったのだ。

パートリーダーの先輩が、「まだKちゃん来てないけど、準備しておいて!」と指示していたので、私は先輩の楽器を組み立てて、準備しておこうとした。
しかし、私は嫌な予感がした。人の楽器に勝手に触れてもいいのかと。
けれど、練習の時間は刻々と迫ってくる。
こうして私は、楽器を組み立て、先に自由音出し室に運んでおこうとした。

このことが、予想通りまずかったらしく、先輩に怒られてしまった。

K先輩の怒ったときの顔は怖い。「ぶっ殺すぞ」とでも言いつけるかのように、真正面から私を睨んでくる。
先輩本人がそう意識しているのかわからないが、私には恐るべき表情なのだ。

特に私の最初のチューニングのときは、私が目を合わせようとすると、こちらをものすごい形相で睨んできた。

それから数日後。考査が終わって最初の部活のときだ。

今回は中学生のみで、木管楽器と金管楽器に分かれて練習をすると聞いて、木管楽器の教室に行った。
私が荷物を置きに行ったときは、K先輩とMちゃんが2人で楽しそうにしていた。
少しいら立ちを覚えたが、気にせず私は楽器を取りに行った。

問題は、楽器を取って戻ってきたときのことだ。
私は2人が木管楽器の教室にまだいるのかと思い、そのまま木管楽器の教室に向かった。

しかし、その教室は、クラリネットパートやサックスパートばかりいて、フルートパートのあの2人はいなかった。
私は焦って2人を探しに行った。

どこか教室を取って待っているんじゃないか?
まさか、あの二人で、私抜きで、仲良く話しているのか……?

私に何も知らせず、勝手にどこかに行ってしまったことが、とてもいやらしく思えた。

友達の力を借りて、なんとかフルートパートの場所を知ることはできたが、K先輩はいつも通り、ただMちゃんや先生と話しているだけだった。

ひどい。私抜きで、何をやっていたのかしら。
まさか2人でヒミツの話……?
あってたまるもんか。K先輩のことを一番愛しているのは私なんだもん!

私はひとまず練習することにした。

それからも、先輩は、私になかなか関わってくださらなかった。
練習が終わり、楽器の片付けをしている間も、私が 話題をふったにも関わらず、Mちゃんとばかり付き合っている。帰り際も、ちょびっと私に話しかけただけで、あとは同級生の先輩たちと帰っていた。

私は、一人で家に帰ることにした。
どす黒い雲が、空を包み込んでいた。

次の日。この日は大雨で、電車が止まったりなんだりで、部活の終了時刻が早まった。
そのようなことがあり、わずか30分しか練習をする時間がなかった。

今日練習できる時間は、30分しかない。
短くても何でもいいから、とにかくK先輩と一緒にいたい……!
今日はパート練習。Mちゃんは休みだし、中学生しかいないから、実質的に私とK先輩二人っきりになることができる。

また楽しくお話できると、期待を胸に、私はミーティングへ向かった。
しかし、相変わらず、K先輩は私と話そうとしなかった。

そしてもっとひどいのが、例のパート練習のときだ。
なんとパート練習のとき、場所はどこでもいいと言い、クラリネットパートの先輩と仲良く練習をしていたのだ。

私は仕方なく、一人で練習しようかと思ったが、同じく先輩がいなくて練習ができない年下の後輩がいた。
その日、大雨で電車が止まり、遠距離通学の先輩が先に下校してしまったのだ。

一人では寂しかろうと思い、私はその子と一緒に練習することにした。
パートが違うので何も教えてあげられることはないが、少しだけ喋って、お付き合いしてあげることはできた。

丁寧に、敬語で話しかけてくる。私を先輩として見ているのだ。

入学してから、ずっと先輩たちに囲まれて、守られていた私。
今度は、私が守らなければ……!

もしかしたら、K先輩は、私たち後輩を守っていることがプレッシャーになってきて、ストレスになってしまったのかもしれない。
そう考えると、先輩は一つ一つの行動にとてもプレッシャーがかかる存在なのかもしれない。

でも、それでも守らなければならない。
だって将来を担う後輩たちなんだもん!




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