樹
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/07/01 21:41:42
むかし愛があった
やさしい想いがあった
このうえなく上品な言葉があった
それらがいつの間にか樹になり
小枝や葉になった
枝を折って中を見ても何も見えない
耳を当てても人の耳には聞こえない
樹はあらゆる方向へ行くかのように伸び
それでいて一歩たりとも動かない
動けないのではなく動かない
風が上の方で樹を歩ませようと躍起になっても
群がる鳥の群れが樹に歌いかけても
樹は静かにじっとそこにいた
知らなければならない
四季を通じて一本の樹であることを
もっと口をつぐみ
じっと見つめることを
人間の言葉を聴き 決して答えないことを
思い続けなければならない
樹は人を包んでいることを
樹は人と同じであることを