Nicotto Town



虹の花






虹の花が咲いた空に伸びる木は

かぐわしい香りがする

と ギリシャの哲学者は記している      

それはだれにもすぐ分かるので

『虹に打たれた木』と呼ばれた

大男のきこりが山に足をかけ

巨大な斧を振るうと

雨上がりの空に

色鮮やかな弧が描かれる

それは『忘れる』ということを教えるため

空に遣わされた虹

人々に見つけられるのを待って消えていく

大男が去った森には

打ち下ろされた斧だけが残される

太い幹に打ち込まれた光る斧が

斧を包み込む真新しい傷口が

傷口だけが香るのだ

そのときからだ

樹木が虹のような年輪の秘密を持つようになる

人も樹も内に持つ秘密は

はかる術もない

内からかもし出す微かな芳香がそれとなく漂うだけである

悲しみや悔恨は忘れ去られる日を待っている

いつかまたきこりがやって来て

その木を切り倒す日まで

人も木も柔らかな風のなかに

芳しく香る日がある

虹はもう消えてしまったのに

人も樹もそれが分かるように香る日がある











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