子供の頃の不思議な記憶は?
- カテゴリ:今週のお題
- 2025/07/21 14:38:26
不思議な記憶。
雲の上にそびえる宮殿を見たことがある。
田舎の祖父母のところに年に一度、夏休みの時に行っていた。遠い場所で長時間、父が休憩をはさみながら車を運転していた。揺られて気持ち悪くなって、後部座席でぐったりしているのが常だった。
そんな時に、ぼんやりと目を上げて空を見た。夏の空には白い雲が、少し下の方にもくもくとわだかまっていて、
そのわだかまる雲の上に、宮殿が見えた。
びっくりした。
固まったまましばらく空を見つめ、宮殿を見つめていた。
隣で寝ていた妹を、慌てて揺り起こし、空にお城がある! と言った。妹は眠い目をこすりながら空を見上げ、ほんとだ、と言った。
二人でしばらく見ていたが、両親にも教えなくては! と慌てて、
「お父さん、車止めて! 止めて!」
と叫んだ。
「空! 空見て! 車止めて! はやく!」
いきなり言われて父はわけがわからず、なんでだ、とかだめだよ、とか言って運転を続けた。わたしは声を張り上げて、車止めて! 空見て! と言い続けた。
やっと車が止まった時、雲の上の宮殿は見えなくなっていた。
湧いてきた雲が建物を取り囲み、隠してしまったのだ。
「空がどうしたんだ? 雲が多いな雨が降るかな」
父はのんびりと言い、母は、「そうね、降るかもね」と言っていた。
雲の上にお城があった、と必死で説明したが、二人とも、空想が好きな子だね、とか、寝ぼけたんだね、疲れたからでしょう、との返事。
結局、見たのは私と妹だけ。
あれが何だったのかは今でもわからない。そのあとしばらく、何かあれば空を見上げて、あの宮殿を探したが、
月日が過ぎるにつれて、探さなくなった。
宮殿の姿も、おぼろになってしまい、どんな建物だったかもあいまいだ。
それでも、今でも、空を見上げるのは好きだ。
ゆっくりと変化する夕暮れや早朝の色、
雨が降る前の空気のにおい、雨上がりにきらめく虹の色、
夜空に輝く星の光。
たまに子供のころのことを思い出しながら、
それでも、どこかに。わたしの知らない何かがあって、
人に知られていないどこかがあって、
ひっそりと輝いている。そう思うことにしている。