【小説】どんな夜も
- カテゴリ:自作小説
- 2025/08/11 18:48:23
帰って来るなり明かりもつけずに、きみは床に座り込んだ。
青いカーテン越しに外灯の光が部屋に差す。きみはそれをうるさいと思う。
なにも今日に限った事じゃないでしょ。
頭のどこかで冷めた声。
けれど一度真っ黒になってしまった気持ちは、とても凶悪で、誰か傷つけずにはおれないような気がして、自分でも持て余して困り果てている。
そういう時、きみは枕をサンドバッグにするとか、お皿を割るとか、そういう種類の八つ当たりを一通りこなしてきた。だからきみの羽根枕は薄っぺらいし、食器はとても気に入ってる物しか残っていない。
途方に暮れてぼんやりしているきみが気の毒になる。
ところがきみは、会社の帰りに寄ったらしいデパートの買い物袋をひっくり返した。ドサドサと床に転がり落ちたのは、大量のジェリービーンズの袋だった。きみはそれをひとつひとつ開けていく。そんなに一度に開けたって食べきれないだろう。
袋を全部開けた。きみは両手にひとつずつ袋を持ってそれを振り回した。
ジェリービーンズの雨が降る。
きみはだんだん愉快になって、部屋中にジェリービーンズをぶちまける。ばかみたいだと思いながら、泣き笑いでカラフルな雨の中を踊る。袋が全部空になった。
急にさみしくなる。
きみはジェリービーンズを敷き詰めた床に転がった。もう、ひと月も電話が鳴らなかった。これからも、電話は来ない。
静かに、嗚咽が部屋の底を浸す。
部屋は月に照らされた珊瑚礁のようで、きみの泣き声が波の音のようだ、と私は思った。黙って見ていたら、きみは起き上がり部屋を見回して「きれいだなあ」と言った。
それから窓の外の私に気づいて、少し笑った。床から赤いジェリービーンズをつまんで口に入れ、小さな声で「椰子の実」を歌った。
どんな夜も、私は変わらず明かりを灯す。
きみが泣いている時も、笑っている時も。
伊良湖岬、知らなかったので調べてみました。
白い灯台が印象的な、きれいな海が見渡せる所なんですね。
四季折々に行ってみたくなる所です。近くないけど。(笑)
ジェリービーンズっすよ…
語感の良さと色彩的にも文章で見た時にきれいだと思って。
肝油…昔、親に食べさせられたなあ…(  ̄^ ̄) トオイメ…
車で40分程掛かるのですがね(^^ゞ ドライブコースとしては丁度良いトコに住んでます、浜松の恵君です。
ですが??(;'∀')はい。ジェリービーンズっすかぁー??(;・∀・)
一度に食べる量は・・・少量なのね(^^;)
予想ですが、肝油とは別物なのかなぁー??と投稿してしまいました(◎_◎;)。
ぶどう色の夕焼けの空はきっと
心に寄り添ってくれると思いますよ。
かなしみがつのっても、その瞬間の痛みを
慈しんでくれるはずです。
なるほど。
かなしいときに「綺麗」と思えるもの(わたしの場合、ぶどう色に染まる夕焼け、がそれにあたるものの一つです)みるようにしてみよう。
ジェリービーンズは『きみ』が「きれい」と思えるように
誘導する小道具です。悲しい時に、何かをきれいと思えたら
それが救いになるような気がしています。
あたしと同じ心境の作品!?
な、なんと。。涙。
道理で、スッと入ってきたわけですねぇ。
でもなぜジェリービーンズなのでしょうか。
想い出の味、なのかな。
あちこち踏みつけてるうちに、「きみ」が何かしらを吹っ切ることができるのを少し、望みます。
コメントありがとうございます。<(_ _*)>
Ange。さんと同じ思いで綴った作品です。
古いのですが、気に入ってます。
でも歩いて進めてくしかないよね、人生。
きみの笑顔があたたかく照らされる日が、この先1日でも増えますように。