【小説】限りなく続く音 10
- カテゴリ:自作小説
- 2025/08/19 14:59:33
それから私たちは磯へ下りて、蟹を捕まえたりして遊んだ。草太は何もかもが珍しいというように、岩の間を行ったり来たりし、崖下の窪みを指さした。
「あそこ行こうよ」
「だめだよ、潮が満ちたら帰れなくなっちゃうよ」
「そっか」
日が高くなってきた。私たちは岩の上に並んで座り、なま温かい潮溜まりに素足を浸して、漁港近くで買ったコーラを飲んだ。草太はお金を持って来なかったので一本しか買えなかったが、いつか祖父と桃を分けたように、私たちは一口ずつ、交代でコーラを飲んだ。炭酸が胸につかえてむせる。
草太には、祖父との思い出がない。私がずっと独り占めしてきたのだ。
そう言うと、草太はにこっと笑った。
「うん、だからちなつが教えてよ。おじいちゃんのこと」
そこで祖父と桃の話をして聞かせた。草太は目を細めて、うんうん、と聞いていた。
「おじいちゃんは、ちなつが悔しいのも分けて、自分の分にして持ってったんだね」
草太のその言葉に、突然、私の目から涙がぽろりと落ちた。
お葬式の時にさえ、泣くことができなかった。
祖父のことを知らなかったのは私の方だ。草太は何も言わずに立ち上がり、こちらを見ないふりで岩伝いに歩いて、背を向けて海を眺めていた。
私を理解してくれた祖父。
祖父を理解できる草太。
わかりあえずに最期の時まで会えなかった祖父と叔母。
海はひとりぼっちを抱きとめて、何かを叫び続けていた。
私は両目をこすって、「草太ァ」と背中に呼びかけた。
「コーラ飲んだこと、お母さんには秘密にしてよ!」
草太はにっこり笑って、きゅっと結んだ口にチャックを閉める仕草をした。
昼頃戻った私たちに、泳がなかったことを知った母は「どこへ行ってたの」と訊ねたが、「その辺案内してた」としか答えなかった。
真っ暗なトンネルを駆け抜けた時から、私たちは離れなくなった。夕飯まで、二人で漫画を読み、テレビを観て、特に何を話すでもなく、ただ一緒にいた。
夕飯の前に仏前にご飯を供える。草太と二人、手を合わせた。
(おじいちゃん、ちょっとでいいから幽霊になって、草太に会いに来てください)
いとこだからなのか、わからない。ただわかったのは、私たちが似ているのは、私たちがそれぞれに孤独だったからということだった。
お忙しい中、最後までお読みくださりありがとうございます。m(_ _)m
「心に残る」とのお言葉、何よりの励み、労いになります。
よろしかったらまた遊びにいらしてくださいね。(*´꒳`*)
細やかな運びで、二人の想いが胸に落ちてきます。
外部サイトで最後まで読ませていただきました。
心に残る作品をありがとうございました。
また機会があったらぜひご訪問させてくださいませ。
ご感想ありがとうございます。
なんというか…私も書き進めながら驚いていました。
ネタバレするのでこれ以上は言えないのですが
草太の『伸びやかさ』に救われながら、書いていましたね…
千夏もきっとそうなんでしょう。
わたしね、かなしいエンドになると思っていませんでした。
――って、ココでそれ書いちゃネタバレでマズイですね。
とにかく。。。
初めから一貫して草太ののびやかさが救いであり、清らかで尊い。
千夏がことあるごとに草太に「バカ!」といってましたが、ほんとに草太、キミはバカだよ!
(ノД`)
最後までお読みくださり、ありがとうございます。m(_ _)m
Angeさんは千夏や草太の気持ちに寄り添ってくださったと思っております。
わたし。。
少し前に、最後まで読了いたしましたの。
(ノД`)