Nicotto Town


ポヨヨンのぽよんぱなし


自作短編【やさしい嘘】

「お母さん、喉が渇いたよぉ」
「お母しゃん、おなかがすいちゃ」
腕の中で震えながらささやくように訴えてくる子供たち


平和な国だった
ある朝、子供達の幼稚園と小学校登校への準備で慌ただしくしている中、
テレビから流れるワイドショーが臨時ニュースに切り替わり
隣国が攻めてきたと都市が黒煙に包まれている映像が映し出された
最初は現実味がなく
テレビから緊迫したアナウンサーの声が部屋中に響いているのに


家の窓から見える風景はいつもと変わらず
快晴でのどかで平和だった


夕日が映える瓦礫の中に隠れて子供たちを抱きしめている
リュックに詰めた食料も尽きた
あちこちで響き渡り揺れる爆音に子供たちの耳を塞ぎ耐える


「お母さん、喉が渇いたよぉ」
「お母しゃん、おなかがすいちゃ」
私の腕の中で震えながらささやくように訴えてくる


「明日はきっとお父さんが迎えに来て見つけてくれる。
そしてお母さんがあったかくて甘いホットケーキとミルクココアを
作ってあげるからね」
上の子は薄く微笑み、下の子は目を輝かせ笑顔になった


月を眺めながら子供たちはやがて眠りについた
子供たちを折れていない方の片腕でそっと抱きしめなおす


瓦礫の隙間から夜空を見上げる
明るく星々が輝き
美しかった


夜は静寂に包まれ


平和だった




【やさしい嘘】

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