Nicotto Town



午前零時のプラットホーム

重たい鉄の匂いと 逃げ場のない寒気が
無人のホームを 支配していた。
遠くで 夜汽車の低い唸りが 近づいてくる。
それは すべてを過去へ追い立てる 巨大な獣の足音だ。
おまえの瞳は 湿っていたが
俺は あえて火を点けたばかりの 煙草に目を向けた。
「元気でな」
その一言をひねり出すのに 一生分の勇気を使い果たした。
汽笛が 夜の静寂を 無残に切り裂く。
動き出した車輪が 冷酷なリズムを刻み始め
おまえの影は オレンジ色の灯りの外へと 遠ざかっていく。
俺は 決して手を振らなかった。
ただ 煙を吐き出し 喉の奥の苦味を 飲み込むだけだ。
コートのポケットには 渡せなかった 片道切符がひとつ。
列車が消えたあとのレールは どこまでも冷たく
ただ 暗闇の中を まっすぐに伸びている。
俺は 踵を返し 出口の階段へと 歩き出す。
夜汽車が連れて行ったのは おまえじゃない。
俺の 残りの人生だ。
  _黎明の歩道_
夜明けは 約束された救済ではなかった。
ただの 灰色の絶望の延長線上にある 朝だ。
空は 昨晩よりも重く 冷たい雨を降らせている。
アスファルトは鏡になり 砕け散った街の夢を映す。
俺は ビルの壁にもたれかかり
ずぶ濡れのシャツから 体温が逃げていくのを 感じていた。
もう 待つ理由も 行く先もない。
乾いた場所も 温かいコーヒーも この世には存在しない。
ポケットを探り当てた 錆びついたコインを
空高く弾く。
表か、裏か。
どちらに転んでも 俺の運命は 変わらない。
雨は 容赦なく 顔を叩く。
これは もはや涙ではない。
ただの 冷たい水の塊だ。
俺は 目を閉じ このまま世界が終わるのを待つ。
あるいは、歩き出すだけだ。


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