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悪夢の代筆人と日曜のコインランドリー2


奴がコインランドリーの向こうに消えた後
私は、ある「違和感」を拭えずにいた
奴が座っていたベンチの上に、
一つだけ、忘れ物が残されていたからだ。
それは、使い古された「銀のシガレットケース」
かつて私と奴が、地獄のような戦場を抜けた際に
互いの生存を祝って分け合った、対(つい)の片割れ。
だが、私は思い出す。
そのケースは18年前、
奴が私の身代わりになって海に沈んだとき、
確かにその胸ポケットに収まっていたはずなのだ。
私は震える指で、ケースを開けた。
中に入っていたのは煙草ではない。
丁寧に折り畳まれた、一枚の「処方箋」だ。
そこには、私の名前と
見たこともない成分の羅列。
そして最下部には、殴り書きでこう記されていた。
「休日は、お前自身を休ませるためにある」
私はダイナーのトイレに駆け込み、鏡を見つめた。
そこには、三日間も眠っていない男の顔がある。
目の下の隈は、まるで消えない銃痕のようだ。
鏡の中の私は、ゆっくりと右手をポケットに突っ込み
何も入っていない拳を、私に向けて差し出した。
先ほど、奴が「ガーベラを掴んだ」と言ったあの仕草で。
「……そうか。お前は最初から、ここにいたのか」
奴の声が、自分の喉の奥から響いた気がした。
シュールな哲学も、不条理な夢の続きも、
すべては、壊れかけた私の理性が
孤独を埋めるために仕立て上げた、最後のエキストラ。
かつての相棒は、死んだのではない。
私の「影」となって、
引き金を引きすぎた私の心を
言葉の暴力で守ろうとしていただけだった。
蛇口をひねり、冷たい水で過去を洗う。
鏡の中の男は、もう何も喋らない。
外は、相変わらず眩しすぎるほどの日曜日だ。
私は深く帽子を被り直し、
一人分の足音を立てて、街へと踏み出した。
次の休日には、
せめてまともな夢を見よう。
あの、名前も知らない青いガーベラの夢を。

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