Nicotto Town ニコッとタウン

スマホ版あります♪



硝子(ガラス)の指先、泥の足跡

唸るようなベースが、街の動脈を揺らしている。
ハウリン・ウルフの残響が、コンクリートの隙間に染み付いて離れない。
だが、その重低音を切り裂くように、
場末のバーの奥から、冷たいピアノの旋律が流れ出した。
それは、まるで凍てついた夜空を指先でなぞるような音。
美しく、それでいて残酷なほどに孤独だ。
俺はカウンターの端で、琥珀色の液体を転がす。
ピアノの旋律は、かつて手放した夢や、守れなかった約束を、
一つひとつ丁寧にかき鳴らしていく。
低く唸るブルースが「現実」だとしたら、
このピアノは、男たちが決して口にしない「未練」だ。
「……綺麗な音だな」
隣で誰かが呟いたが、振り返る必要はない。
ここは、名乗るほどの名前を持たない奴らが、
ただ音の波に身を委ねて、自分を確認するためだけの場所。
泥にまみれた足跡を隠すように、
繊細なピアノのアルペジオが夜を白く塗り潰していく。
重たいブルースと、研ぎ澄まされたピアノの不協和音。
それが、この街で生きるための、たった一つの呼吸法だった_

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