Nicotto Town ニコッとタウン

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始発待ちの皿

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地下鉄の振動が、カウンターの上のシュガーポットをわずかに揺らす。
「ル・ヴォーバン」――場末のダイナー。
ここには、パリの華やかな朝日も、焼きたてのクロワッサンの香りもない。
目の前に置かれたのは、焼きすぎた目玉焼きと、
ナイフが悲鳴を上げるほど硬いベーコン。
そして、泥水のように濃く、熱いだけのコーヒー。
俺が求めていたのは、洗練された美食じゃない。
昨夜、指先にこびりついた「闇の感触」を、
この下品なほど力強い塩気で、無理やり上書きすることだ。
隣に座った労働者が、無言で安タバコを吹かす。
その煙が、俺の皿の上で朝の光を遮る。
誰もが、それぞれの夜をやり過ごし、
また不恰好な今日という一日を、無理やり飲み込もうとしている。
最後の一口を飲み干し、俺は硬貨を数枚、テーブルに放り投げた。
胃の腑に落ちた重たい熱量が、
冷え切った身体に、歩き続けるための微かな火を灯す。
「ご馳走さん。味は最悪だったが……目覚めにはちょうどいい」
店を出ると、冷気を帯びたパリの朝が、
容赦なく俺の顔を叩いた。

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