Nicotto Town ニコッとタウン

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孤狼のポートレート3


薄汚れた雑居ビルの陰で、胃の奥から酸っぱいものがせり上がる。
路地にぶちまけたのは、さっきまで耳に流し込まれていた「救い」という名の汚物だ。
奴らは白い服を着て、死んだ魚のような目で、
「愛」や「慈悲」という手垢のついた言葉を呪文のように唱える。
個を殺し、意思を捨て、巨大な一つの意志(マス)に飲み込まれる快楽。
俺にはそれが、腐った肉に群がる銀バエの羽音にしか聞こえない。
差し伸べられた手には、見えない鎖が握られている。
跪(ひざまず)いて祈れば、確かに楽にはなれるだろう。
だが、その代償は「自分」という名の魂の切り売りだ。
膝の擦り傷から血が滲む。
この痛み、この熱、この不器用な渇き。
それこそが、俺が生きている唯一の証拠だ。
神だの仏だのの安っぽい御加護など、
この泥濘のなかでは、何の役にも立たない。
口を拭い、ふらつく足で立ち上がる。
背後で響く賛美歌を、冷たい雨が打ち消していく。
たとえ地獄の底まで独りだとしても、
俺は奴らの天国(オリ)の中では、決して眠らない。
路地の排水溝に流れ込む雨水は、濁り、淀み、すべてを平等に汚していく。
俺の頬を叩く雫も、奴らの聖水を気取ったまやかしも、空から降ればただの冷たい液体だ。
見上げれば、ビルの隙間に切り取られた灰色の空。
神の視線も、救済の光もそこにはない。
あるのは、ただ無慈悲に降り注ぐ物理的な重さと、容赦なく体温を奪っていく現実だけだ。
震える指先で、濡れたコンクリートの壁をなぞる。
硬く、冷たく、決して揺るがない。
俺が信じられるのは、この指先に伝わる不快な感触と、
肺の奥で燻る、消えかけの火種のような「拒絶」の意志だけだ。
「真実」なんてものは、教壇の上や聖典の行間には転がっていない。
それは、誰とも分かち合えないこの渇きの中に、
たった独りで耐え抜いた夜の果てに、
ふとした瞬間に足元に落ちている、鋭いガラスの破片のようなものだ。
血を流さなければ見えない。
孤独を突き通さなければ触れられない。
雨は止まない。
だが、その冷たさが俺の輪郭をいっそう鮮明にする。
俺は、俺であることを選んだ。
その代償がこの寒さなら、喜んで引き受けよう。

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