Nicotto Town ニコッとタウン

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似非の正義

雨の舗道に、安い正義が溢れている。
奴らは高い演台に立ち、抜き身の言葉を振りかぶる。
その切っ先が、誰の血を求めるのかも知らずに。
「正解」という名の、錆びついたドス。
それを大上段に構え、振り下ろす。
返り血を浴びぬよう、安全な画面の裏側で。
俺はバーボンを口に含み、
その茶番を、ただの雑音として飲み下す。
真実ってやつは、そんな綺麗な形はしていない。
もっと泥にまみれ、声も出せず、
路地裏で静かに冷たくなっているものだ。
振りかざされた「似非の正義」が風を切る。
空疎な音が、夜の静寂を汚していく。
俺に必要なのは、振り上げる剣じゃない。
冷え切った指を温める、一杯の毒。
それと、自分だけが知っている小さな嘘だ。
夜が明ける頃には、奴らの正義もゴミと一緒に回収されるだろう。
後に残るのは、誰にも届かなかった叫びと、
飲み干されたグラスの底の、わずかな沈殿物だけだ。
奴らの正義に、乾杯。
店の扉が開き、濡れたコートの男が入ってくる。
奴の目には、先刻まで演台で叫んでいた「正義」の残光が、まだ浅ましく宿っていた。
「あんたも聞いたろ。あの崇高な演説を」
男は隣の席に座り、同意を求めるように俺の横顔を覗き込む。
その口から漏れるのは、借り物の言葉で作られた薄っぺらな熱気だ。
俺は答えず、ただ氷を回す。グラスの中でカランと、誰かの良心が砕けるような音がした。
「ああ、聞こえたよ。耳が腐るほどにな」
男の顔から余裕が消える。
奴らが振りかざす正義の刃は、自分に向けられることを想定していない。
大上段に構えれば構えるほど、その懐はガラ空きだということに、この手合は一生気づかない。
俺はコートの内側に隠した「真実」という名の、一発も撃てない錆びた銃を指先でなぞる。
引き金は重い。だが、安っぽい正義を振り回すよりは、その重みに耐えている方がまだマシだ。
「おい、聞いてるのか」
男の声が荒くなる。俺は最後の一口を飲み干し、席を立った。
カウンターに置いた小銭が、街の灯りに照らされて鈍く光る。
「あんたの正義が、もし明日、誰かの腹を満たすなら、もう一度ここへ来な。
その時は、泥水のような安酒を一杯奢ってやるよ」
俺は背後で喚く男を置き去りにして、雨の夜へと踏み出した。
外はまだ、振り下ろされることのない「正義」の残骸で、ひどく視界が悪かった。

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