Nicotto Town ニコッとタウン

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寄生虫の遠吠え

朝刊の隅で死んだ、名もなき女の骸(むくろ)。
インクの染みが、血の代わりに黒く広がっている。
その死臭を嗅ぎつけ、ハイエナどもが液晶の裏から這い出る。
男は、冷え切った部屋で安物のディスプレイを睨む。
彼にとって、他人の破滅はただの極上の餌(ベイト)だ。
「情弱の自業自得だ」
「最初から、計算が狂っていたのだ」
乾いた指先が叩く、冷酷な正論の群れ。
さも世界の構造をすべて知る神の如き、偉そうな手つき。
だが、その言葉には血が通っていない。
教科書から剥ぎ取った、無機質な記号の羅列にすぎない。
彼は自分が正義の主人公のつもり(ヒーロー)
安全な防弾ガラスの向こう側で、引き金を引き続ける。
返り血の温かさも、標的の痛みも知らぬまま。
だが、暗闇のバーの片隅、琥珀色のグラスを傾ける影がひとつ。
男が踊る液晶の画面を、冷ややかな、あるいは退屈そうな目で見つめている。
「御託は立派だが、弾が当たっていないな」
影は静かに煙草の煙を吐き出す。
男が必死に紡ぐ「正論」のすべてが、ただの自己防衛の悲鳴だと見抜いている。
他人の不幸を裁かねば、己の空っぽな存在を維持できない哀れな道化(ピエロ)。
防弾ガラスだと思っているものは、ただの透明な檻だ。
男は自ら檻に入り、世間という観客に向かって、偉そうに吼えてみせている。
「お前が撃っているのは、お前自身の影だ」
影はグラスを置き、静かに立ち上がる。
男のいる狭い部屋のドアを叩く。
鍵の開いた冷たい静寂を破り、男の背後に滑り込んだ影は、その耳元で本物の現実を、冷酷に囁いた。
「見事な講釈だな、坊や。だが、このパソコンも、お前が座る椅子も、すべて親の脛(すね)をかじって得たものだろ」
「他人の人生を論理的に片付ける前に、年老いた親の財布を計算したらどうだ?」
「お前が画面の裏でいくら神を気取ろうが、この街はお前の名前すら知らない。ただの親に寄生する無職だ。それがお前の、唯一の『正論』さ」
男は振り向くことさえできない。
喉は渇き、腹は鳴り、承認という名の乾いた泥水をすすり続ける。_
他人の不幸をどれだけ貪っても、その腹が満たされることはない。_
仏教の経典に描かれた、喉を焼かれながら貪り続ける「餓鬼」そのものだ。
知性を気取った「正論」の裏にあるのは、ただの飢餓感と、親の血を吸う寄生虫の焦燥。
夜が明ければ、男の書き込みはゴミのようにタイムラインへ埋もれる。
男は気づかない。
冷酷に他人を嗤う自分が、もっとも冷酷な現実(孤独)に、
じわじわと生殺しにされていることに。
そしてその滑稽な姿を、さらに冷徹な目で見下ろす「本物の観客」が、闇の中にいることを。
階下から、老いた親が男を呼ぶ、ひどく疲れた声が響いた。
残されたのは、暗い部屋に響く、虚しいクリックの音と、餓鬼の細い息遣いだけだ。

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