Nicotto Town ニコッとタウン

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砂の上のシナトラ


ジリジリと照りつける太陽が、アスファルトだけでなく俺の脳髄まで溶かしていく。
吹き抜ける海風は、タバコの煙を気怠く運ぶだけだ。
ジーンズのポケットに突っ込んだ携帯ラジオから、フランク・シナトラの『My Funny Valentine』が聴こえてくる。
気怠い歌声が、真夏の砂浜に奇妙なほど溶け込んでいく。
Your looks are laughable...」(君のルックスは笑えるくらいだ)
シナトラは甘いバリトンでそう歌う。
俺はサングラスの奥で目を細め、白波が寄せては返す海面を眺めた。
「笑えるくらい愛しい、か」
この灼熱の砂浜には不釣り合いなその台詞を、俺はひとり呟いた。
君の唇は少し弱々しく、決して完璧なギリシャ彫刻のようではない。
だが、俺にとっては唯一無二の、最高傑作のアートだ。
波打ち際にぽつんと残された、赤いハイヒールの片方。
それが今朝、君が俺の元を去った残骸だった。
派手に踊り、笑い、そして砂のように俺の手から零れ落ちていった君。
Stay, little Valentine, stay.」(そこにいてくれ、小さな恋人よ)
シナトラが哀愁を込めて叫ぶ。
俺はくしゃくしゃになったタバコの箱を捨て、ポケットからバーボンのスキットルを取り出した。
ぬるくなった酒を喉に流し込む。
すべてを焼き尽くすような真夏の日差しの中、俺はただ一人、波の音とシナトラの歌声に包まれていた。
君の幻影が、砂浜の陽炎の向こうで微笑んでいるような気がした。
バカげた話だ。だが、この熱い砂の上なら、どんな甘いメロディも信じられる気がした。

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