自作小説倶楽部7月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2026/07/31 23:05:26
「異世界帰り」
そこは巨大な世界樹によって支えられた世界だった。
もとは地球のような大地が存在したのかすらわからない。
隆起する地面は世界樹の根であり、緑の空は枝と葉で出来ていた。
ノクシと名乗る人々が世界樹を崇め、世話をし、その恵みによって生きていた。
緑色の髪に、青白い肌、最初は驚いて気味が悪かったが、彼らは突然現れた僕たちを世界樹が招いた客人としてもてなし親切にしてくれた。慣れて彼らと意思疎通が図れるようになると、僕たちはノクシたちが好きになった。
ノクシの文明レベルは農耕初期で止まっていたが、それはほとんどの食料が世界樹から供給されているためで、それ以上の進歩は必要なかった。数人の長老が大ぜいをまとめ、若い乙女が巫女として神事を司っていた。
未開の地、呑気な田舎、そう感じたがいつの間にか僕たちはそれに安らぎを見出していた。
刺激が無いわけではない。
ノクシの重要な仕事のひとつが世界樹を蝕む「竜」を狩ることだった。
その呼称を聞き直しても「竜」としか翻訳されなかった。その見た目は僕たちの知る神話の生き物とはまったく違っていた。
竜は地面の隙間から突然現れる。小さなものは半透明で芋虫のような姿をしており、大きなものは赤や青、様々な色で身体の長めの恐竜のような姿をしていた。
ノクシたちは数で彼らを圧倒し、何本もの槍で「竜」を串刺しにして殺した。小さなものは踏みつぶした。怪我人が出ても巫女が祈ると傷口はすぐに塞がった。
巫女の治癒能力よりもさらに不思議なことがあった。
「竜」の死骸を前に巫女が祈ると「竜」は現れた時と反対に地面に吸い込まれていく。タカダは世界樹が「竜」を養分にしているのだろうと推測したが、それならば何故「竜」が世界樹から出現するのかは説明できなかった。
単調な日々がこのまま続くのもいいかと思い始めた頃、異変は起こった。
頻繁に地面が揺れ、「竜」の出現頻度が増えた。
僕たちは長老たちに呼び出され、今の世界樹が枯れかかっていること、新たな世界樹の芽を見つけることが僕たちの役割だと説明された。
オタクなキノモトは「勇者召喚だったのか」と喜び、大騒ぎした。
狭い階段を駆け上がり、閉じられたドアの前に立つ。ノブを回し、引いてみたが内側に抵抗があり、開かなかった。まあ、よくあることだと力を込めてドアを引きはがす、ドアの木材が砕ける音がして金具が足元に転がった。それを踏みつけて俺は仲間とともに部屋に踏み入る。
「何だ。何だよ!!!!????」
部屋の中には無精ひげを生やし、長いもつれた髪で顔が分からない男がうずくまっていた。ぷんとすえた体臭がマスク越しにも俺と相棒は構わず男を部屋から引きずり出す。抱え上げて階段を下りる。
「やめてよ。やめて!!」
「キノシタさん。もう現実に向き合う時間だ。ありもしない世界のことなんて忘れるんだ」
そういうとキノシタはやっと俺を直視した。
「ちがう、違う。僕たちは本当に異世界に行ったんだ。異世界で魔物と戦って世界を救ったんだ」
「いいや。違法タバコの見せた幻さ。異世界も君と友達が考えたファンタジー小説がモトネタだ」
俺は古いノートをキノシタに突きつけた。
ノートを見て思い出すことがあったのだろう。キノシタの目が泳ぐ。
「そもそもの原因は数年前に流通した違法薬物だ。外国のタバコとして売られたから被害は甚大だった。一時は楽しくなるが妄想と現実の区別がつかなくなる」
「でも、ユタカは異世界に戻ってしまったんだ」
「その友達は亡くなっている。残念なことに自殺だ。君は平凡な現実にも、友人の死からも目を逸らした」
「違う!!」
「違わない。異世界に戻るなら何故君を誘わない? 友達は君に何の相談もせずに死を選んだ。それだけだよ」
キノシタの表情が暗くなる。自覚はあるのだろう。
「兎に角、今は家を出てもらう。仕事をして現実の社会に戻るんだ」
相棒がキノシタを車に乗せる。俺はそれを見送る。
「じゃあな。キノシタ」
不意に出た言葉にキノシタは俺の顔をまじまじと見た。何か叫んだ。僕たちの絆が、とか言ったようだが無情にも車は走り出した。
「大丈夫ですか?」
相棒が俺に声を掛けた。
「何が?」
「あのキノシタさん 貴男の友達だったんでしょう?」
「この仕事に私情は持ち込めない」
「そうですね。異世界タバコの被害者に同情していては出来ません。でも、貴男に異世界タバコの経験があるとは驚きです。ほかの人と同様に一晩くらい行方不明になっていたのですか」
「覚えてないな」
通称—異世界タバコ--、今でも現実逃避のために手を出す馬鹿がいる違法薬物だ。高校生のころ3人で吸って、見事に異世界の夢を見た。
何故か一緒にトリップすると異世界の夢に共通点が現れる、など様々な謎がいまだ解明されていない。
しかし公表されていないが、この薬物の本当に恐ろしいのはハッピーエンドではなくバッドエンドにたどり着く人間が多いということだ。最後の結末が無く、「異世界から突然送り返された」と信じていたキノシタが俺は少し羨ましい。
俺が見た悪夢は、俺たちが新しい世界樹の養分にされる。というものだった。巫女は美しく笑って俺たちを祝福した。それがノクシたちにとっては喜ばしいことだったからだ。
おびえる俺たちは拘束され、儀式が始まった。しかし、地面が激しく揺れ、大地を割り、根を引きちぎり巨大で真っ黒な「竜」現れ、巫女を殺し、すべてを破壊しつくした。
いまでも時々「竜」の憎しみに狂う眼を思い出す。「竜」は世界の意思の具現化した姿で、ノクシたちはどこかで世界の怒りを買ったのではないか。あの世界は均衡を失い、滅ぶべくして滅んだのではないかと、


























