Nicotto Town ニコッとタウン

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想いで 凍りついた色彩への別れ


夜が明けても、
太陽は姿を現さなかった。
ただ、濃いミルクのような霧が、
オーヴェルの街を、
そして俺の行く手を深く包み込んでいる。
無人のプラットホームに、
一人、佇(たたず)んでいた。
湿った空気が肺を冷やし、
昨夜浴びた安酒の残りを、
ゆっくりと洗い流していく。
線路の先は、
白濁した虚無へと消えていた。
まるであいつが最期に見た、
出口のない世界のようだ。
「ここには、何も残っちゃいない」
声に出して、霧の中に放り出す。
言葉は形をなさず、
すぐに冷たい大気に吸い込まれた。
あいつが愛し、命を削った
あの鮮やかな黄色も、激しい青も、
この濃霧の前には無力だ。
すべては等しく灰色に塗り潰され、
ただの「過去」という名の
遺品に変わっていく。
遠くから、鉄の軋む音が聞こえる。
俺を次の終着駅へと運ぶ、
冷徹な鉄の塊が近づいてくる。
ポケットの中で、
あいつが遺した絵の具の汚れがついた
一枚の硬貨を指先で弾いた。
未練を捨てるための、
俺なりの儀式さ。
ベルが鳴る。
重いドアが開く。
俺は一度も、振り返らなかった。
オーヴェル=シュル=オワーズ。
お前が抱く憂鬱も、
あの男の狂気も、
すべてこの霧の底に置いていく。
錆びついたカバンを片手に、
俺は列車へと足を踏み入れた。
また、あてのない旅が始まる。
ただ、生き延びるためだけの旅が。

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