独白:熱帯夜3
- カテゴリ:小説/詩
- 2026/08/07 15:16:26
「……立てよ」
背を向けた俺の言葉に、若者はコンクリートに這いつくばったまま、かすれた声を絞り出した。
「あんたに……何がわかる。俺は、もう……何も信じられない……」
「あんたに……何がわかる。俺は、もう……何も信じられない……」
俺は足を止め、ゆっくりと振り返った。
その目に宿った絶望の深さを見て、俺は小さく息を吐き出す。
他人も、自分も信じられなくなった。それは、この街で生きるための最低限のスタートラインに、こいつがようやく立ったことを意味していた。
その目に宿った絶望の深さを見て、俺は小さく息を吐き出す。
他人も、自分も信じられなくなった。それは、この街で生きるための最低限のスタートラインに、こいつがようやく立ったことを意味していた。
俺は若者の前に戻り、その場に屈み込んだ。
手を貸すつもりはない。だが、言葉だけは、この夜の熱気よりも鋭く突き刺してやる。
手を貸すつもりはない。だが、言葉だけは、この夜の熱気よりも鋭く突き刺してやる。
「いい目になったな、若いの。それが『何もあてにしない』人間の目だ」
俺はポケットからブリキの時計を取り出し、若者の目の前で揺らした。
「教えといてやる。武器も持たない俺たちが、この泥溜めで生き残るための、冷酷で確実なルールだ。よく聞け。
一つ、感情に名前をつけるな。怒りも悲しみも、ただのエネルギーの無駄遣いだ。裏切られたんじゃない、世界がそういうシステムで動いているだけだと脳に叩き込め。
二つ、次の三歩先だけを見ろ。十年後の夢も、明日の希望も、この暑さで蒸発する。今、その足をどこに踏み出すか、それだけを考えろ。
そして三つ目だ」
俺は時計をポケットに仕舞い、若者の胸ぐらを、掴みはせず、ただ人差し指でトントンと叩いた。
「自分を信じるな。自分を『疑い続けろ』。
『俺はまた甘い夢を見ていないか』『さっきの決意は本物か』と、一秒ごとに自分を監視するんだ。自分という一番の裏切り者を、徹底的に飼い慣らせ。それが、裏切られて死なないための、唯一の防弾チョッキだ」
『俺はまた甘い夢を見ていないか』『さっきの決意は本物か』と、一秒ごとに自分を監視するんだ。自分という一番の裏切り者を、徹底的に飼い慣らせ。それが、裏切られて死なないための、唯一の防弾チョッキだ」
若者は血と泥にまみれた顔で、俺の言葉を一つ一つ、乾いた砂が水を吸うように聞き入っていた。その瞳の奥で、絶望の炎が消え、代わりに冷たい炭火のような光が宿り始める。
「……自分を、疑う……」
「そうだ。他人に期待せず、自分に失望もしない。ただ、淡々と息をして、次の足跡を刻む。……ほら、自分の足で立て。俺はもう行くぜ」
俺は立ち上がり、今度こそ歩き出した。
背後から、衣類が擦れる音と、よろめきながらもアスファルトを踏みしめる重い足音が聞こえてきた。
背後から、衣類が擦れる音と、よろめきながらもアスファルトを踏みしめる重い足音が聞こえてきた。
若者がついてくるのか、それとも別の闇へ消えるのか、俺は振り返らない。
そんなことは、俺のあてにすることじゃない。
ただ、夜風が少しだけ、乾いた皮膚に冷たく感じられた。_
そんなことは、俺のあてにすることじゃない。
ただ、夜風が少しだけ、乾いた皮膚に冷たく感じられた。_

























