タケシの武勇伝…(23)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/11/03 13:01:46
塙さんはティーカップをゆっくりと皿に戻すと、今度はきちんとタケシの顔を見ながら話し始めた。
「正直に申します…北野さん。我々がやろうとする手術は単なる医療技術ではありません。人体機能を再活性させる手術なのです。ですが、まだ人体と物質をつなげることはできません。特殊な条件でないと無意味なのです。貴方のように自分の指がちゃんとついている人でないとね…」
タケシはちょっと考えたが、すぐに言い返した。
「だったら、俺なんかよりもっと重傷な人がいるでしょ。その人たちにやってあげれば良いんじゃないっすか?」
塙さんは、タケシの言い分に納得したように大きく頷いた。
「そのとおりです北野さん。我々も将来的にはそうするつもりです。ですが、そのためにはどうしても臨床試験をしなければなりません。単刀直入に言いますが、貴方の指で試させて欲しいのです。」
「ようは、俺に実験台になれってことですか?」
「そんなつもりではありません。ですが、貴方には私個人としてもケガをさせた責任があります。償いと言うと気を悪くするかもしれませんが、貴方にもう一度ボールを握らせることができれば私もいくらか気が安まります。もちろん貴方の気持ち次第ですが…」
『野球をやりたくないですか?』…この言葉を塙さんはあえて呑み込んだ。
彼のVTRを持っていることでも分かるように、タケシについての調査は完璧にしてある。やりたいのは重々分かっていたからだ。
「・・・」
「もちろん、今すぐここで答えろとは言いません。ですが、できれば1日でも早く返事が欲しいと考えています。貴方の将来のためにも手術のためにも、間が空けば空くほど良い結果がでなくなりますから…」
彼に断る理由など何もない。ただ、何とも言えない不安が心の中に残っており、それが決断を鈍らせているだけだった。いきなりケガの原因を知らされ、同時にケガした指を元に戻すとまで言われたのだ。迷っても無理はなかった。
この時、タケシの人生はまた新しく動き出した・・・
※※つづく※※
一話目から一気に読ませて頂きましたっ…す・すみません、うそです f ^ ^;
真夜中に読み始めたけど寒さに負けてお布団に退避し…昼間に続きを読もうとしたら別件で拉致られ…先程、ここまで読み終わることができました。見えざる手に阻まれていた気分です ; ;
今、まさにストーリーのスタート地点に立ったというところでしょうか。
一話一話、大事に描写されていて読み手に次回を期待させる構成は見事と感じました。シリアスに成り過ぎずに適度な緊張感を維持しつつ、主人公の素朴な人間性を表現しているバランス感覚も◎。登場人物それぞれのキャラクターも容易に思い描くことができ、魅力的です ^ ^ それぞれの登場人物で別のストーリーが出来そうなくらい。
また、読ませて頂きますね♪
ボールが握れるなら
その選択肢しかないはず!!
しかし実験されるのも嫌ですね・・・・・。
不安はあっても一か八かでのってみたくなる状況ですねえ。
その先にある武勇伝というのが気になるところ。