「契約の龍」(129)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/11/15 02:26:23
「その前に、確認したい事があるんだが…どうして契約者の死後も、魔法が継続してるんだ?」
――大きな理由の一つは、われら自身が呪陣を構成しているから、だの。もう一つは、領域内にある者どもが契約を代行しておる、という事かの。
つまり、学生や職員が、学院内にいる「力あるモノ」たちやその本体を保護している限り、学院内に働いている魔法は有効である、という事か。
「…とりあえず、契約後も学生の授業とか実習に支障は生じないんですね?」
――そなたがそう望むのであればな。
…なるほど。
「…では、いったん契約した後、内容の変更をする、というのは?」
――契約の根幹に反するような内容でなければ可能かと思うが。
「根幹に反する内容、というと?」
――そうだの…例えば、この領域内での殺生を禁じる、とかかの。われらのうちには、より小さなモノを糧とするモノもおるでな。この領域から出られぬ者にとっては、到底呑めぬ内容だからの。
「では…常につき従う、というのも、拒否はできない?」
――今までも、われらの内にある間は、そうだったが…気がつかなんだかの?
…は?……今まで、も?
「この人の場合は仕方がないと思うわよ。聞いたところによると、物心ついた時から囲まれてたんでしょ?身近すぎて判らないと思うわ。さっきだって気がつかなかったでしょう?」
――そういえば、そうだったの。
…という事は、入学してからこっちの言動は、ほとんど把握されていると?
覚えてもいない子どもの頃の事を持ち出されるより、よほど恥ずかしいのではないか?
――…そなたが気に病んでおるのは、われらがそなたとともにある事を、親密な誰かが気にはせぬか、という事ではないか?
「…それもあるが……どちらかというと、自分が一人で居たい時がある、という方が大きい、かな」
――そういえば、大人の目の届かぬ所に隠れるのが好きな子であったの。
油断すると、これだ。
――まあ、われらは存在を希薄にする術に長けておるでな、そう気に病むでない。何なら、契約に盛り込めばよい。「姿を見せるな」と。
「…そこまでは言わないが、できれば存在を意識できない方がいいかなあ、と。あ、っと、それから、外でも同じ状況になるってことかな?契約すると」
――だから、契約にそういう内容を入れれば…
「解りました。で、具体的にどうすればいいんですか?」
――そうだの…
そうつぶやいて、緑色の華奢な指を、形の良い口許に当て、しばし考え込む。
――せっかく、言葉の解る者がおるのだから、「契約の言葉」を練ってもらおうかの。
と、クリストファーの方を見て言う。
「な…なんで、俺?言葉が解る、というのだったら、他にも…」
――この機会を逃すと、その知識を活かす場は、もう訪れないであろうよ。…魔法使いへの道を歩まないのであれば。
「…活かす機会が訪れそうにない知識なら、他にもいっぱい持ってるし」
「使う機会が来ない方がいい知識、というのも確かにあるけどね」
クラウディアがクリストファーに詰め寄る。
「使う機会があるかどうか、今から決めつけてどうするの?」
そう言いながらクリストファーの耳を引っ張り上げる。…自分の頭頂部よりも更に上にあるというのに。
「いたいイタイ痛い。べ…別に決めつけている訳じゃ…」
「…どちらでもいいですから、「契約の言葉」を訳してください。もし、どちらの方もいやだとおっしゃるなら、別の方法を教えていただきたい」
――そうさの。……そなたが多少の苦痛を厭わぬ、というのであれば、「血の誓約」という手段もあるがの。
禍々しい名前がついているな、と思ったら、クリストファーが蒼褪めた顔で、慌てて口をはさむ。
「解った。俺がやる」
学院で教わった覚えのない言葉なので、たぶん、かなり古い方法なんだろうが…あんなに慌てるとは…どんな方法なんだろう?
後で調べてみよう。