「契約の龍」(130)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/11/18 01:11:25
「「契約の言葉」というのは、要するに、言葉の力で、相手を縛りつけるものだ」
クリストファーが枝で地面を引っ掻きながら説明し始める。
「だからまず、縛りつける側と縛られる側の名前が要る。あんたの名前は後で確認するとして…あんた、ここを何て呼んでる?」
「…対象は「庭園」じゃないのか?俺がここを何て呼んでるのか、はそんなに重要なのか?」
「ここを「庭園」と呼んだのは、ティールドゥースその人。後を継いだエリックは、同じ場所を「学院」と呼んでる。「契約の言葉」の中で。…で、あんたは、何て呼んでる?」
…そんな落とし穴があったとは。
「うーん…「学院」、だと思うけど…その場合は、この森は除外して考えてるかも…」
「じゃあ、そこはとりあえず保留。次に縛り付ける相手が何者かを規定。ここはエリックのをそのまま流用すればいい。それから…」
ぶつぶつ言いながら、地面を引っ掻く。どうやら、考えをまとめるのにメモが要るらしい。
「…よし、できた。まず、普通の言葉で読み上げるから、訂正があったら言ってくれ」
「あ?…ああ」
「えーと…「我、…ここにあんたの名前が入るな、…は、汝、…ここに「庭園」の呼び名が入る…を守り育む事を約す。代わりに「庭園」は我を守り、力を貸し与える事を約せ。なお、「庭園」とは、古のティールドゥースと称する者が、この地に創り、育て、「学院」の初めなる者、エリックが引き継ぎしものなり。なお、契約の履行にあたり、我は汝の外に出る際、汝の一部を携帯するものとする。また、汝は常に我とともにあるが、我及び他の人間にその姿を現わさぬよう心掛けよ」…こんなとこかな?」
――「学院」の定義が抜けておるぞ。
「え?…ああ、それもいるのか…えーと…「「学院」とは、エリックと称する者によって、庭園内に築かれた領域及び施設、を含んだ庭園全体を指す。…なお、「学院」内における「庭園」の行動制限は、エリックによって規定された者を引き継ぐこととする。」でいいかな?」
――われらの方は差し支え無いが。
「そうすると……あとは呼び名だけか」
周囲の森を含めた、学院全体。
「…「学院」でいいかと思うが…それで何か不都合があるのか?」
――われらの方は、なんと呼ばれようと差し支えないが。…そなたの方はそれで構わぬのか?
構うも何も……「学院」は「学院」だろう。ずっとそう呼んできたはずだが。……遊び場にしていた子どもの頃は違うかもしれないが。
「…ああ、そうだ。契約とは別にお願いが」
――何か不都合があるなら、契約に…
「契約で縛るような事でもないので。子どもの頃の話を持ち出して、人をからかうのはやめてくれ、というのは」
――われらは別にからかったりなどはしないが…何か外でそんな目にあったのかの?
「……いえ…昔の話をやたらに持ち出されなければ結構です」
「じゃあ、さっきので訳すからな。こっちは、エリックと同じ「学院」でいいとして…あんたの名前は?」
「…弟から聞いてないか?アレク、だ。アレクサンダー・ロジェ」
「“アレクサンダー”?……”アレクス”?」
クリストファーが何か言いたげな声音で復唱する。
「何か?」
「…いや…何でもない」
何でもない、と言いながらも、クリストファーは何やらぶつぶつと呟く。
名前、といえば…
「ティールドゥース、ってずいぶん変わった名前だが……本名なのか?」
独り言のつもりだったが、思いがけず、返答があった。
――さあ…親、とか師匠、とかのつけた名があったやもしれぬが…われらと共に過ごしていた間は使わなかったの。
「「後継者」のエリックがティールドゥースの末裔、というのは?」
――本人の子孫か、兄弟姉妹の子孫かはわからぬが…生前、主が残した文書によって、この領域を含む土地の管理を任された者があってな、エリックはその子孫の一人だった、という話だ。
「…つまり、「エリック」の方は、いわゆる俗世で通用していた名前だけど、「ティールドゥース」はそうではない、という事か?」
――人の耳に、変わった名だと聞こえるのならば、そうなのだろうな。
「…確認事項はもうないか?…じゃあ、始めるから、復唱して。……発音には全く自信が無いんだが…それで契約に支障が出たらすまないな」
「こっちは言葉自体が解らないんだから。支障があるようなら、提案した方に責任を持ってカバーしてもらえばいいさ」
アレクさんも出生に
秘密があるですかな?
運営さんに要望を出してみるか
では