タケシの武勇伝…(34)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/01 11:27:12
ここでまたシンさんが言葉をはさんだ。
「そこでね。実は石橋くんにぜひお願いしたいことがあるんだ。北野くんが野球やってたのは知ってるよね・・・」
「え?!う、うん。みんながスゴかったって言ってたから・・・」
「北野くんはこれから手術を受けることになるんだけど、もう一度ボールを投げるにはどうしても術後のリハビリが必要になるんだ・・・その時、君に北野くんの相手をお願いしたいんだけど、やってくれないかな?」
「えーっ!俺が?」
「うん。君は北野くんとも仲が良いし、野球経験もあるし、なにより北野くんと同じクラスにいるからいつでも彼とすぐ会えるしね!・・・それに僕は見てのとおりだから、北野くんにリハビリのやり方は教えられても軽いキャッチボールの相手さえできないんだ。だから、ぜひ君にお願いしたいんだ!」
「そりゃあ、できないことはないけど・・・」
「もちろん君の都合もちゃんと考えるようにするよ。すまないけど、お願いだから引き受けてくれないかなぁ・・・」
「私からも是非お願いします・・・学校にいて北野さんの相手ができるのは貴方しかいないのです。どうか協力してください」
横にいた塙さんまでが頭を下げてリョウを説得した。
「う、うん。まあ、できるだけのことしかできないけど、それで良いなら・・・」
「良かった・・・ありがとう石橋くん。これで北野くんの術後の心配がひとつ消えて助かったよ。あとは北野くんがいつウチで手術を受けるかだね・・・それが決まれば、どんなことをするのかきちんと連絡するから」
リョウの了解を得られて安心したのか、シンさんは前屈みだった体を車椅子の背もたれに戻して一息ついた。薄っすら紅みがかっていた顔からスゥーっと血の気が引いていくのが分かった。
「じゃあ北野くん、いつ手術受けられるかな?ウチはいつでも準備できているから・・・あっ!でも入院しなきゃなんないから明日以降でなきゃムリだろうけど」
シンさんは、ホッとした顔を見せながら言った。
「う、うん。じゃあ明日にでも病院に行くよ・・・で、何時に行けば・・・?」
「えー明日でしたら・・・そうですねぇ、朝の9時に来ていただきましょうか。病院の受付で名前を言ってもらえればすぐに病室に案内させるようにしておきますので」
内ポケットから手帳を取り出した塙さんが書き込みしながら告げた。
「じゃあ、明日の9時に行きます。あっ!何かこっちで準備するものありますか?」
「そうですねぇ、念のため保険証だけ持参していただけますか。費用は一切かかりませんが、病院としては入院時に書類を作らなければなりませんので・・・あとはこちらで全て用意させていただきますから手ぶらでも構いませんが、まあ歯ブラシくらいでしょうね!」
「分かりました。保険証と歯ブラシだけ持っていきます。じゃあ今日はこれで・・・」
早速とばかりにタケシが席を立ちかけると・・・
「あっ、北野くん。よかったらもう一杯お茶飲んでいきなよ。すぐに熱いの淹れるから。それにまた家まで送らせるから」
そう言ってシンさんは、再びテーブルの呼び鈴を振った。すると、メイドさんが先日と同じチョコレートケーキをキャビネットで運んできた。それも丸のまま6つも乗せて・・・
「石橋くんも食べてってよ。いっぱいあるからさ。」
リョウはコクンと頷くと、ちょっと横目でタケシを見ながら慌て気味に紅茶に口をつけた。
紅茶はすっかり冷めていたようで、リョウは一気に飲み干すと空になったカップを皿の上に戻した。緊張していたのだろう・・・ここで初めてホッとした顔になった。
※※つづく※※
プレゼントありがとう
しかしリョウくんにそんな経験があったとは…この分だと、以前出てきたほかの登場人物にもまだ知らない秘密があったりして…。
なぜ歯ブラシ?