【おでかけ】(2)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/05 19:48:10
王都の中心部には、広大な広場があって、いくつかの国家行事はここで行われる。
だが、それ以外の時は、この広場は一般的に開放されていて、定期的に市が立つ。そうでない日でもそれなりに賑わっているが。
「うっわー……話には聞いてたけど…実際に見てみると、すごい。ここまで来る間も人だらけだったけど……」
少女の感嘆の声を聞いて、男子学生が満足げにうなずく。
「市の日に限らず、王都には国内外から人が集まるからな」
「随分と誇らしげですが、殿下がこれだけの人を集めた訳ではないでしょう?」
「……前々から思ってたけど、君、俺に対する態度だけ、他と違わないか?」
「だって、先生から「要注意人物」と指摘されているのは、で…」
「殿下」と言いかけて言葉を切り、辺りを見回す。
「…他にはいませんもの」
そんな少女の様子を見て、普段よりも幾分砕けた服装の青年が、少女の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃとかき回す。おめかし、と言われたので、綺麗に梳いて背中で緩く編んだ髪がぐしゃぐしゃになってしまった。
「なにもあたりをはばからなくたって、誰もこっちの事なんか気にしちゃいないって」
それは希望的観測だろう、と少女は思ったが、口には出さずにいた。王都の門を入ってからこっち、つかず離れずこちらを窺っている気配が、少なくとも三人分、ある。害意はなさそうだから、多分青年につけられている護衛なのだろう。青年がそれを気にする様子が無いのは、慣れているせいなのか、鈍くて気付かないからなのか定かではないが。
「…まあ、気付いてる奴は、見て見ぬふりしてくれてるのかもしれないがな。…行商人にまで面が割れてるとは思いたくないが」
どうやら開き直っての上の事らしい、と判った少女は同情の表情を浮かべる。
「有名人は大変なんですね」
「まあ、半分は子供のころからの蓄積なんだけどね」
どうやら幼少の砌からお忍びでこういう場所に出没していたらしい。なんだ、同情をして損した、と少女はあきれた表情になる。
「市を一回りすれば、結構食べ物を出す店もあるし、テーブル席をしつらえている店もある。改まった店よりは、こういう場所の方が警戒されないかと思ったんだけど」
「……おいしいもの、という保証は?」
「うーん…保証、と言われると困るけど、場の雰囲気で五割増し、おいしくなる気がしない?」
「五割は増やし過ぎでしょう。いいとこ三割です」
「…なかなか評価が厳しいね」
「でも、改まった場所に連れて行っていただいたとしても、緊張してしまったら味が判りませんので…確かに、こちらの方が気が楽です」
少女がにっこりと笑って連れの青年の方を見上げる。
「……ところで、私お財布の中身が乏しいのですが…」
「任せなさい。この市の商品全部、というのは無理にしても、それなりの予算はある。だいたい、あまり高額な商品と言うのは、こういう市で扱っていないし、仮にあったとしても、人目につくようなところには置いていないものだ」
だから少女がおねだりするくらいは大丈夫、と青年は快活に笑った。
「とりあえず、どんな店があるか、一通り回ってみようか?」
王都の定期市は、広場の管理者にいくばくかの金を支払えば、商人に限らず、誰でも店を広げる事ができる。但し、広くて良い場所はそれなりの値段がするので、大手の商人に予約されていることもしばしばだ。
誰でも店を出す事ができるので、扱う商品も様々だ。近隣の農家が持ち込む農産物やその加工品、はるばる海を越えてもたらされたと称する香辛料や宝飾品、王都に点在するさまざまな工房でつくられる工芸品、などなど。少数ではあるが、商品ではなくて自らの芸を人に見せて稼ぐ大道芸人や楽師の姿もある。
「めまぐるしくて、頭がくらくらする…」
広場を突っ切って反対側の端まで来た時、少女が早くも音を上げた。
「…一生分の人間をみたような気がします」
広場のこちら側を区切っている堀割の欄干に寄りかかって溜め息をつく。
「一生分とはまた、大げさな」
少女の横に並んで欄干に凭れた青年が苦笑する。
「大げさじゃないですよ。私にとっては」
少女が欄干に背を預けて空を仰ぎ見る。
「学院に入学した日、一日だけで、それまでに見た人数以上の人を見ました。…その晩は、なかなか寝付けませんでした。あまりに多くの人を見たので、興奮したのだと思います。…そして、今度はこれ。…ちょっと熱が出そうです」
「えーと……よく判らないけど、それは、喜んでくれてるのかな?」
少女が桜桃色の唇を尖らせ、青年の方に視線を戻した。妙に色っぽい仕草だ。
「つまらなそうに見えましたか?」
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ああああ……終わりませんでした。なんでだ?
一人称じゃないからか?
市場の説明が長いかも
落ちが分かりません/(°ё°)\