タケシの武勇伝…(36)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/09 14:28:06
…タケちゃんの方がよっぽど大変なんだよな!
リョウは、父のいないタケシの家庭事情を良く知っていた。母親が生活を支えるために苦労していることも、そのため兄弟が中学生の頃から新聞配達をしていることもだ。
なにより、日本の学校生活に慣れてない自分にいつでも優しく接してくれる。
…今度は僕がお返しする番だ。
リョウは、タケシが納得するまでどんなに時間がかかっても相手し続けることをこの時決意した。
一方、タケシは・・・
「おじさん、おはようございます。」
おじさんと呼ばれたのは、このスーパー店主である山口だった。小さい頃から北野家と付き合いがあり、何かと兄弟の世話を焼いてくれる優しい人物である。
「おっ、いらっしゃいタケちゃん。今日はずいぶん早いな・・・はははっ!それともこれからまた補習行くのかい?・・・はははっ!」
「んなことないっすよ。それに補習だったらもっと早く行ってますって!」
「まっ、そーだわな!…ところで何だい今日は?」
「今日、肉の特売日でしょ。ちょうど開店したばっかだから先に買いに来たんす!」
「おいおい、また特売品の先物買いかい!ホントは夕方なんだけどなぁ・・・しゃーねぇなもう・・・はははっ!んじゃ、裏に来なよ!」
「すんませんっす。いつも・・・」
一応申し訳なさそうに頭を掻きながら、タケシは山口の後ろに着いて店の裏方へと進んだ。そこにはテーブル板サイズの白いまな板の上に、これからスライスされる大きな肉塊がデーンと乗っかっていた。だが、山口はその肉塊には手を触れず、厨房の奥の冷蔵庫からすでにスライスされてある肉片を持ってきた。肉片といっても2kg以上は優にあった。
「タケちゃん。ほれ、これ持っていきな!」
「おじさん、これいつもの倍あるじゃないっすか!ちょっと多すぎますよ。俺、いつもの分しか金持ってないし、いつもの量でいいんすよ!」
「な~に金はいつもの料金でいいんだよ。特売品だから別に高い肉って訳じゃないしよ!・・・それにタケちゃんまた野球できるかも知んないんだろ?朝、聞いたよヒロくんに!だったら体力つけなきゃな・・・はははっ!」
「ヒロの奴がそんなこと言ったんすか!あのバカったれが・・・」
「おいおい、ヒロくんを責めんなよ。なんか嬉しそうな顔してたから俺から聞いたんだからよ!・・・またタケちゃんのボール見れるかも知んないだろ。だったら安いもんだよこんな肉くらい!・・・はははっ!」
自分の姿を待っている人がここにもいたことに、タケシは素直に嬉しさを感じた。人に期待されることがどんなに気持ちを高めるのか、改めて気付かされた思いがした。
「おじさん、ありがとう・・・じゃあ、これもらって行きます」
「おう、頑張れよ!・・・はははっ!」
タケシには、山口の笑い声がいつもとは違ったものに聞えた。その声は、朝聞いたゴリ山さんの声とどこか似ていたように思えた・・・
※※つづく※※
もちろん、自分だけの功績ではなく、親や親戚が築き上げてきた信頼関係のおすそわけなんでしょうけれど。
それにしてもタケシは人気者ですねえ。
面白くなっていくね!!
タケシくんは自分のためばかりではなく、彼らのためにも…と頑張ると思いますが、無理はしないで欲しいです…嗚呼、だんだん近所のおばちゃんのような心境になっていく…。
いや、まさかね・・・。