Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(134)

 (そうしたら、今度はアレクが学院に縛り付けられることになる。…それは避けたかった)
 半透明な腕が、背中側から俺の首周りに巻きつく。感触はないが。
 (いつ言おう、どうやって言おうって、ずっと考えてた。でも…結局今までズルズルと先延ばしになって…)
 「…ごめん、クリス。もうしないから、体に戻ってくれ」
 半透明なクリスが、耳元でくすりと笑う気配がする。
 (アレクがそうしたいなら、続けてくれても構わないのに。…隠し立てしてた私が悪いんだし)
 そういう趣味はないぞ。
 (…ああ、そうだ。ついでだから、このまま「龍」のところへ…)
 「……クリス。自覚してるかどうかわからないけど、いまにも消えそうだぞ?いったん戻って、休んだ方がいい。…頼むから、戻ってくれ」
 半透明の顔がひとつ溜め息をついて、俺の背中から離れ、実体と重なる。
 やや間があって、クリスの手がゆっくり持ち上がる。そして、俺の顔にそっと触れる。
 「……私が怖いのはね、こうやって触れる事ができなくなること。…アレクを感じられなくなること。………あそこではね、「龍」の存在感が圧倒的で、自分を保つのが難しいんだ」
 「…うん」
 クリスの手に自分の手を重ねる。
 自分が保てない、というのはともかく、「龍」の傍にいるだけで、感覚があやふやになるのは、自分も体感したから、解る。
 「前の時は、時間が短かったし、独りじゃなかった。だけど……」
 「一人になんて、しない。心細かったら、呼べばいい」
 冷たい指先に唇をあてる。
 「いつだって駆けつけるから」
 「…ポチみたいに?」
 クリスが目を細める。笑った、のだと思いたい。
 「…ああ…クリスには、そういうのもついてたな。…俺ではリンドブルムより当てにならないか?」
 「そんなことない。当てにしてる。とぉーっても。…前にも言ったよね?誰よりも当てにしてる、って。…ポチが気になるのなら、何よりも、って言いなおそうか?」
 「いや。いい」
 「…だけど…だからこそ、アレクとは一緒に行けない。…だから、それが、怖い」
 クリスが手をぎゅっと握りしめる。その手を上からそっと包み込む。
 「クリスが一人で行く、と言った時から聞きたかったんだが、…どうして、一緒ではだめなんだ?」
 答えがあるまで、やや間があった。
 「だって…考えてもみて?世話する人が、大変だよ?クレメンス大公の面倒は、「龍」が直々に見てくれてるけど、私まで面倒は見てくれないと思う。そこに、さらにアレクまで加わったら……」
 「…なるほど。傍迷惑だな」
 「それに…切り札は温存しとかないとね」
 クリスの空いた方の腕が、そっとこちらの肩にまわされる。
 「…ちょっと、気が楽になった。…少し、休みたいから……こうしていてくれる?……寝つくまででいいから」
 そう言ったクリスが俺の体を引き寄せて、腕の中にもぐりこむ。
 「…体の上に何もかけずに寝たら、風邪をひくぞ?」
 「…じゃあ、その時の看病は、お願い」
 普段着とはいえ、ドレスのままはきついのか、胸元を寛げながらそう言う。見る間に、腰の位置までボタンをはずしてしまう。
 しばらくもぞもぞと動いていたかと思うと、いつの間にか寝息を立てている。
 ……これは、自制心が試されているんだろうか?

#日記広場:自作小説




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