「契約の龍」(140)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/31 03:09:33
「…で、具体的な手順は?」
再度クリスの詰問に戻る。
「具体的、って言っても…特に変わった事は。相手が手強いだけで。…えーと…」
口籠りながら指を折って手順を数え始める。
「まず、「龍」に接触して、内諾を取るでしょ。それから、クレメンス大公を起こして、契約の解除と、ついでに再契約をお願いする。…で、「憑代」のところへ行くなり引き寄せるなりして、一時的に「龍」の体を復活させて、締めに、クレメンス大公に再契約してもらう」
「…その、計画の事は、今まで誰かに話した?関係者に」
「だから、陛下と、全部ではないけど…「憑代」の保管者には」
「…クリス。憑代、って…」
「…うん、あのひと。…場所もちょうど海だし。場所も確認済み」
よく《ラピスラズリ》が承知したものだ。探すのに手を貸したせいだろうか?
「で、私が手伝うのは、最初の段階だけでいいの?」
「取り敢えずは。…最大、どれくらいいられそう?」
「雪が解ける前に終わらせたいから…情報収集の時間を取っても……ひと月かそこら、かね」
「ひと月…かあ…だったら、大公を起こすとこまで手伝ってもらえる、かなあ」
「ところで、「龍」には接触できるようになったの?」
「んー…自分のではだめだけど、人のからだったら、できるみたい。…というよりも、学院へ入ってからは、試した事ない」
「…いや、夏にあったろう?クレメンス大公のところで」
「…でもあれは、私が意図的にやった訳じゃないから」
「どういう事?」
どういう訳かこちらを向いて訊かれたので、説明する。クレメンス大公の金瞳から「龍」に接触しようとした時に、急にクリスの「金瞳」が活性化して、触手を伸ばしてきたので、そちらから接触することにした、と。
「…ふうん…クリス自身の「金瞳」を入り口にした方が手間がかからなくていいんだけどねえ。もう一度できそう?」
「んー…」
クリスが中空に視線をさまよわせて何か考え込む。
「…あ。ダメだ、どっちみち。今、遮蔽してあるから」
「遮蔽?またどうして…」
「どうして、って…」
こちらをちらりと見る。代わって説明しろ、と?
「…陛下の「金瞳」と同じですよ。協力はしない癖に食欲は旺盛なので、面倒事を避けるために。クリスの制服の裏側には、夏冬問わず「遮蔽」が縫い付けられているそうです」
「ふうん…」
嘘は、言ってない。
「まあ、理由はどうあれ、クリスのが使えないんだったら、クレメンス大公のを借りるしかないわねえ。…最初の予定通りに」
「他のは全部遮蔽したからね」
「こんな時刻に随分しっかり食べてると思ったら。…例の双子か?」
「陛下よりあっちの方が弱そうだけど、ちょっと遠くにいるから、頼めなくて」
クリスが祖母の方に目をやると、祖母の方は今一つ信頼できなそうな表情でクリスを見返す。
「ちゃんと遮蔽できてる?」
「んー…もともとの結びつきが、あまり強くないみたいでねぇ…「金瞳」が痕跡程度しかなくて。とにかく、「遮蔽」はしてきた」
「あんまり安心できなそうな物言いだけど、大丈夫なの?」
「出来る限りの事は、としか言えないけど。もし遮蔽が破れるようなら、居所はアレクが知ってるから」
…それは「道案内を頼む」という程度の事か?それとも「事後処理は任せる」と言う事か?
「…じゃあ、とりあえず明るくなるまでは何もできる事はない、かねえ?」
クラウディアの言葉で、その場は散会、という事になった。