Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


柔くしなやかな月の下で

第十八章

マンション近くに着いた私はいつもの様に帰宅の道で、十月になっていた空を見上げ月はないかな、なんて思いながら暗くなり始めていた夜空を見つめる。
それと同時に自分の部屋の電気も確認し、付いていない事にも慣れたが帰っているだろう彼へと「まだ、気を遣っているんだな」といつもの様に暗い部屋へと目を向ける。
雨はすっかりと上がっていて、空気が澄んでいる中で綺麗な三日月を見つけて私は「写真でも撮ろう」と心が躍っている様にも感じた。
エレベーターへと乗り込み、「3」の数字を押す。
今日はどんな話をしようかな、と考えながら自分の部屋へと足が踊る様に進む。
鍵は常に掛かっていた為、私は鍵をバッグから取り出しドアを開ける。
「ただいま」とリム君へと声を掛ける。
「…」返事がないのは初めての事だ、私は焦りを感じ「リム君…?いる?」と電気を付けた。
明るくなった部屋で私が目にしたのは小さく蹲っている彼の涙だった。
「どうしたの…?」…「あ、おかえりなさい、すみません…」私は彼の呼吸の乱れを感じ取り、
フォカッチャをゆっくりとテーブルへ置き、背中を摩りに隣へとゆっくり座った。
「大丈夫…?どうしたの?」と私は彼の様子を逃すまいと必死に見つめていた。
薬は飲んだのか確認をし、「…飲みました」と返って来た事に安堵する。
「ゆっくりで良いから話せる範囲で話してみて?」と彼へと問う。
「…はい」時計だけの音の空間がどの位経ったのかは覚えてはいないが、ぽつりぽつりと彼は今日あった出来事を話してくれた。
「今日…すずさんがお仕事に行った後に…何故か過呼吸になってしまって…」と少しづつ。
私は一つ一つ丁寧に「うん…うん」と話を聞いていた。
彼の話によると、私が出て行った後に過呼吸を起こしながらも、薬を飲んでバイトへと向かったのだと言っていた、でも数時間経つとまた過呼吸を起こしいつもと違う事に気付いて、バイトを早退して
病院へと向かったらしいのだ。
先生へと色々と話し、勿論私の事もである。
先生に判断されたのは「分離不安症」との事だったらしく、薬を貰ったそうなのだ。
人混みは避ける様に帰宅したらしく、「分離不安症」の事を調べたのだと言う。
小児が掛かる事が多い様で、「俺…まだまだ子供なんですね…情けないです…悔しくて…」と
嗚咽交じりに必死に言葉で伝えようとしてくれていた。
「…自分で自分が制御出来なくなって行く…」と苦しそうに涙を流していた。
「すずさんと…離れると恐怖なんですよね…みっともないですよね…」と自分を卑下する様な言葉を口にする。
「そうだったの…大丈夫よ、私はいつでもここにいるし、ちゃんと帰って来るから」と
彼を抱き締めた。
私の細い腕にしがみ付きながら、彼は「…すずさん…怖かったです…」と泣いていた。
「大丈夫、大丈夫」と頭を撫でながら彼に落ち着く様にと私は彼を抱き締め続けた。
四、五十分した頃、彼は「…ふぅ」と一息つくと、「少し落ち着いてきました…」とゆっくりと言葉にした。
私は、「…大丈夫?」と確認した上で「大丈夫」と言う、彼を信じ抱き締める事を止め彼の隣に座り続けた。笑いながら彼は「情けないですね」と呟いていたが、私には無理して笑って居る様に見えた。
「リム君…無理して笑わないで良いんだよ」そう伝えると「…はい」と初めて見るであろう彼の真剣な顔を見た瞬間だった。
とても儚げな美しい顔をしていた。
「煙草でも吸おうか」と彼に伝えると「はい…」とだけ答え、あまり笑わなくなった表情の彼は何か考え事にでも耽るかの様に煙草へと手を伸ばしていた。
「灰皿取って来るから、待ってて」と立ち上がろうとすると彼は私の腕を掴み、引き留めるかのように
「…手だけでも…握ってて貰えませんか…?」と私に聞く。
「大丈夫だよ…すぐ戻って来るから、安心して?」と頭を撫でると、腕を離してくれた。
私は、テーブルにあった灰皿を持ち、あちこちにある煙草を持って、彼の隣へと座り、手を握った。
二人して、煙草を吸う時間にほんの少し、「安らぎ」というものを感じている私がいた。
私にはリム君が「必要」だったし、彼にとっても私の存在が「必要」だった様に感じた。
静かな時間が二人を包む。煙まみれになる迄、二人で煙草を吸い続けていた。
背後には美しく三日月が光っていた。

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2024/03/31 18:32
きれいな情景が目に浮かび
涙が出てしまいました

紫音さん すてきなお話ありがとうございます

お月様が二人を見守ってくれているみたいですね



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