Nicotto Town



ときの万華鏡屋

ここは時の万華鏡屋。
今日のお客様は、どうやら長旅をしているようですね。
さて、どんな万華鏡で、おもてなしをいたしましょうか。

ふぅ・・・。
このアジアの外れの国はなんてエキゾチックなんだ。
おとぎの国のような、おもちゃの国のような、なんとも雑多で混沌としていて。

食事をしようと店の前に行けばヌードルにフォークが絡まって、宙に浮いていたり
本物かと思えば偽物、マネキンが立っていると思えば本物の女の子。

頼みもしないのに水を出してくれるというのは聞いていたけれど、飲み干してしまうと勝手にまた注いでくれるというのは聞いてなかった。これは本当に値段に入っていないのだろうかと心配してしまう。

船から下りて1日、自由時間があると言うので上陸してみたのだけれど、なれない言葉となれない文字、そしてへんてこな英語もどきが乱舞する町で少々疲れたので船に帰ろうと思ったときに、ふと目に入ったのが薄暗い路地。

知らない町、知らない国でのご法度は薄暗い路地。どんな目に合っても文句は言えないとわかっていた。しかしこの国は財布を落としても戻ってくると言う嘘のような国だ。私の国のような一神教でもない、多神教、もしくはあまり神を尊重してないように見える国なのに、なぜそんな善良な人が多いのか、実に不思議な国だ。

ついつい、ふらふらっと吸い込まれるように入った路地の奥にはボンヤリと店の輪郭がちらちらと浮かんでいる。看板には「万華鏡屋kaleidoscope shop」と書いてあるのがわかった。

そんなにまだ遅い時間ではないはずなのに、妙に薄暗くて周りの様子がよくわからないまま、まるで明かりに吸い寄せられる蛾のように店の中に入ってみると、店の中も明るいといえば明るいのだけれど、そこここに薄暗がりがあるような、なんだか昔のろうそくの明かりで物を見ているような感じだった。

そんな店の奥のほうに店員がいた。

若い女性のようだが、この国の女性はみんな若く見えるから年齢は良くわからない。薄暗がりとひと続きに見えるようなまっすぐな黒髪を長く伸ばして、モジリアニの絵の女のようにアーモンド形の瞳も黒味がかった茶色。

すべてがくすんだ店内と一体化しているようにもみえ、その中に陶器の様に見える滑らかな白い肌だけが浮き上がっているような、まるでつかみどころのない感覚にとまどいながらも、高機能のセルフォンで会話をしようと試みる。

「ここは・・・万華鏡を売っているのですか?」
「ご希望ならばお作りいたします」
「すぐできるのですか?」
「お名前と生年月日、住所をこちらにどうぞ」

なんだか会話がかみ合わないような気がするけれども、仕方がない。母国語ではないのだから、セルフォンの言語変換能力にも限界はあるし。

出された紙にさらさらと必要事項を書き入れる。

「少々おまちください」
「あ、そのぉ代金はおいくらになるのでしょう」

もしすごく高かったらどうしよう、と思って聞いたのだが通じたのか通じなかったのか答えはなかった。

「少しお時間いただきますので、こちらでお待ちください」
いつのまにか甲高い子どものような声が近くでするのでビクッとして見回すと、猫の耳を生やしたおかっぱの女の子がお盆にお茶をもって運んで来て、近くのテーブルに置いてくれた。

「どうぞ、ごゆっくり」
ぺこりと頭を下げて奥のほうに引っ込んでいく後姿にはしっぽのようなものが。

コスプレとかいうものらしいな。この町では色んなコスプレの女の子がお店をやっていると聞いたことがある。この店もそういう店なんだろうか。

ぼんやりと見るともなく女の子を目で追っていたのだがうす暗がりに入ってしまった。たしか白いエプロンをつけていたのだが、その白い色もすっと消えてしまった。いやこれは疲れているせいだろう。気のせいに違いない。

出されたお茶は取っ手のないアジアの国独特の茶碗だったので、熱いんじゃないかと用心しながら手を出してみたが、薄い陶器の割には意外と熱くない。中身はぬるいのか。自分のふるさとでは、ぬるい茶などをだすと失礼といわれるのだが。

そう思って一口飲んでみると、熱々ではないものの甘みとさわやかさが鼻に抜けていく。これがこの国の「お茶」なのか。新緑の森の中のような気分になる。これは土産に買っていこうか。どこかで売っているに違いない。

出されたお茶の美味しさに気をとられているうちに、どうやら万華鏡ができたらしい。

「こちらがあなたの「ときの万華鏡」です。お代は後ほどいただきますので、どうぞ。」
手渡された万華鏡は、思ったよりずっしりとした感触だった。
「御覧になってみては?」

言われて目に当ててみると最初は薄暗くてよくわからなかったのだが、方向を変えてみると光りがうまく入ってきてはっきりとみえるようになった。くるくる回してみているうちに、思わずはっとなったのは母の顔が見えたような気がしたからだった。が、それは一瞬で別の形に変ってしまった。

まわしているうちに、昔飼っていたペットの犬が見えたり初恋の彼女が見えたり、なつかしい故郷の花が万華鏡に広がったり。夢中になって見ていたとき、ふいに足元がぐらっと揺れた。

これがうわさに聞いたことのある「地震」か??

とっさに頭をかばってしゃがんで近くにあったテーブルに潜ろうとするが、焦ってしまって必死にテーブルか椅子の足をつかんで目をつぶって揺れが収まるのを待った。地面が揺れるなんて経験は初めてなので、目をぎゅっとつぶったまま。一体どれくらいの時間がすぎたのか。ぽんぽんと肩をたたかれて声をかけられた。

「お客様、いかがなさいました?ご気分でも?」
はっと声のするほうを見ると、そこには見慣れた制服を来た船員が心配そうに覗き込んでいた。

私がいすかテーブルの足と思ってつかんでいたのは、船のデッキの柵だった。
「あ、いや。その、大丈夫です。」
そのとき出航の合図の汽笛が鳴り響いた。
ぼーーーっぼーーーっ

ゆっくりと船は港を離れていく。いつもの船旅と何も変らなかった。わたしは夢でも見ていたのだろうか。すっかり日が暮れて暗い港の向こうにはキラキラと光る夜景の広がる都会がみえる。私は、本当にあの町にいったのだろうか。あの万華鏡屋はなんだったんだろうか。

船はゆっくりと次の寄港地に向かう。




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2021/12/23 08:20
あ、なんか恥ずかしいものを見られた気分(笑)
言語化するって難しいなあって思いますー♪
アバター
2021/12/23 08:14
小説の文体は久しぶりに見ましたが、良いですね。
その情景をイメージ化しやすく、話に没頭しやすいです。
って、約5年前の日記ですがw



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