Nicotto Town



握った手

「あぁ この船をご覧」
彼は海から視線を外す
私は言われたとおり体の向きを変え
背にしていた船を見る 思っていたのより大きい
「この船は昔 客船として使われていた」
「この船の船長が私の祖父だった 祖父は落ちたんだ」
何も言えない
「私がいつも立っているあたりから 祖父は助けようとしたんだ」
「突然...

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握った手

「これから先はまたのお楽しみ」
「どうして?」
「それも今は内緒」
笑顔の彼は口元に人差し指を当てる
「はい」
渋々頷く
「さぁ食器を片付けよう」
「あ はい」
すっかり忘れていた席を慌てて離れる
洗おうとした横に彼が立つ
顔を彼に向ける
初めてのことだった
以前は使用人がやっていたが
今は私が担当...

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握った手

食器と皿の擦れ合う音と暖炉で炎が爆ぜる音だけが部屋に響く
カチャ
彼より少し遅れてスプーンを置く
少し固めに焼かれたオムライスにセロリとハーブソーセージの効いたスープはもうない
食器を片付け洗おうとしたが
「洗わなくていいから席に戻って」
「はい」
彼に止められた
席に着くと彼は指をパチンと鳴らした...

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握った手

太陽が昇り始めた頃
彼はデッキに出る
それからは自室に籠もって何かをしている
食事の時間の前に私の部屋に足を運ぶ
月が顔を出す頃になると
もう数千回 数百万回 
聴いただろうか
同じ音楽が流れる
それは静かで優しくて
でもどこか悲しそうな曲だ

私はといえば
デッキに行くことを許されていないから
彼...

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握った手

ビーフシチューを初めて食べたのは
3つ前の凍るような時だった
口に運び飲み込むたびに身体は徐々に熱くなった
―その前に私は食べたことはあっただろうか

そんな事を考えているとある事を思い出した
初めてビーフシチューを食べた日
大きなケーキが出たきた
いつも食べているようなカットされたものではなく丸い...

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