霧のなかに、ひとつの影が立つてゐる
それは僕自身の、うつろな姿なのだらうか
冷たい孤独が、僕の輪郭を削り去らうとする時
遠い空の彼方から、微(かす)かな響きが届くそれは、どこか見知らぬ教会の鐘の音(ね)だ
祈る人のない、寂しい村の夕べのやうに
鐘の音は、白い霧の海をゆるやかに渡り
僕の凍てついた胸を...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
霧のなかに、ひとつの影が立つてゐる
それは僕自身の、うつろな姿なのだらうか
冷たい孤独が、僕の輪郭を削り去らうとする時
遠い空の彼方から、微(かす)かな響きが届くそれは、どこか見知らぬ教会の鐘の音(ね)だ
祈る人のない、寂しい村の夕べのやうに
鐘の音は、白い霧の海をゆるやかに渡り
僕の凍てついた胸を...
夜が明けても、光は僕を照らさない
ただ白い霧が、すつぽりと世界を包んでゐる
僕はランプを消し、冷え切つた窓を閉めて
届くことのない手紙を、そつとポケットに仕舞ふすべては霧の彼方に、淡く消え去つてゆく
おまへへの哀しみも、あの都会(まち)の記憶も
僕はひとり、濡れた草を踏んで歩き出す
どこへ行くあても...
日暮れは、ひんやりと僕の肩を包む
街の暑さは、もう遠い記憶の底なのに
この高原の静けさが、かへつて僕を責めるのだ
僕はひとり、深い青に染まる林のなかにゐる風は冷たく、白樺の梢を鳴らして過ぎゆく
おまへがここにゐないといふ、ただそれだけのことが
これほどまでに僕の胸を締めつけるとは
――あふれる切なさ...
しかし、僕はまたかへつて來た
あたたかな雲の海原のその麓へ
風が過ぎゆく、草の青い匂いを連れて
失はれた日の幻を呼ぶためにおまへは知つてゐるか むらさきの山並みを
遠い空の端(はし)に光るつめたい朝を
僕はひとりの美しい歌を歌へばよいのだ
過ぎ去りし季節の、なつかしい面影に白樺の影が、白妙(しろたへ...
都会の熱(いき)れは僕を苦しめ
僕はただ、遠い冷気(ひえびよ)を夢みてゐた
アスファルトの照り返す、あの重い真昼から
逃れるやうに、この高原の駅へ降り立つここには、青い風のひろがりがある
都会の騒がしさは、もう遠い幻のやうだ
白樺の葉が擦れ合ふ、かすかな音楽のなかに
僕は傷ついた呼吸(いき)を、そつ...