「風の又三郎 1941」#2-10
- カテゴリ: 日記
- 2017/05/05 16:22:47
製材所に来たのは、運転手を除いて逓信省の役人と陸軍少佐の二人だった。逓信省の役人は運転手から渡された傘をさして足早に宿舎に入ったが、少佐はいかにも軍人らしく、雨が降っているのにクルマから降りても悠然と歩いて宿舎に入って来た。三郎は海軍にいる伯父から習った正しい敬礼で迎えた。少佐もそれに敬礼で応えて...
製材所に来たのは、運転手を除いて逓信省の役人と陸軍少佐の二人だった。逓信省の役人は運転手から渡された傘をさして足早に宿舎に入ったが、少佐はいかにも軍人らしく、雨が降っているのにクルマから降りても悠然と歩いて宿舎に入って来た。三郎は海軍にいる伯父から習った正しい敬礼で迎えた。少佐もそれに敬礼で応えて...
二人は、腕を組んで鋼の部屋まで歩いて行った。ここでは、二人のことを誰も知らない。鋼の部屋に着いた沙桐は、荷物の中から白いキルトを取り出しカーテンレールに掛けた。雪の反射光に真っ白なアルハンブラ宮殿が浮かび上がった。鋼は、沙桐の肩を抱いてじっとそれを見つめた。「部屋が暖まるまで、こうし...
和夫を探しに山に入った哲也と清は、雨を避けるために斜面にある窪みに身を隠していた。雷鳴が鳴り響く度に二人は肩をすくめた。大木の下を避けたのは、落雷の危険を避けるためなのだが、吹き込む雨に体温を奪われていく。哲也より小さい清の方が先に震え始めた。震える清の背中に哲也は自分の背を充てた。 「清、二人...
「すごい雨だね。父さんたち、大丈夫かな」 三郎は練炭コンロでサツマイモを蒸していた鈴にそう言った。 「へえ、今日はどこまで行かはったのやろ」 父の仕事がどういうものか、実際に見たことがないのだが、道なき道を歩いて調査するようなことを聞いていた。今日は逓信省の役人が来るのだから、もうそろそろ...