革封筒の中から滑り出したのは、
インクの褪せた、数枚の古い羊皮紙だった。そこに記されていたのは、救済の約束ではない。
八百年の間、この石の巨像が飲み込んできた
「沈黙」の代償だ。火災の夜、崩れ落ちた尖塔から解き放たれたのは
聖なる鳥ではなく、何世代にもわたる呪縛だった。
文書には、大聖堂の地下深くに...
革封筒の中から滑り出したのは、
インクの褪せた、数枚の古い羊皮紙だった。そこに記されていたのは、救済の約束ではない。
八百年の間、この石の巨像が飲み込んできた
「沈黙」の代償だ。火災の夜、崩れ落ちた尖塔から解き放たれたのは
聖なる鳥ではなく、何世代にもわたる呪縛だった。
文書には、大聖堂の地下深くに...
シテ島の心臓は、夜の闇に縫い止められている。
見上げるノートルダム、その双塔は
天を指さしているのではない。
逃げ場のない罪人を、冷徹に監視しているのだ。セーヌの川面は、墨汁を流したように黒い。
そこに映るステンドグラスの残光は、
かつて流された誰かの血よりも、なお、禍々しく赤い。再建の槌音は止み、...
サンジェルマンの教会の影が
石畳の上で 痩せこけた指のように伸びる
太陽は 安物のバーボンをぶちまけたような
不機嫌な色で セーヌの向こうへ沈んでいった「ドゥ・マゴ」のテラス席
冷めたエスプレッソに 誰かの嘘を混ぜて飲み干す
ヘミングウェイが座った椅子も
今は 流行りの香水と 虚飾の笑いに汚されてい...
お気付きですか。
この世の理(ことわり)とは、弾けるのを待つ泡のようなもの。
私の言葉も、あなたの吐息も、
この瞬間に生まれては、次の瞬間には虚無へと還る。
それを「悲劇」と呼ぶのは、少々野暮というものでしょう。「たまゆら」……ほんのひと時。
玉が触れ合うかすかな音ほどの...
五月の夜風は、使い古したシルクのハンカチのように、街の汚れをなでていった。
だが、そんなのはただの気休めにすぎない。空には、磨きそこねた銀貨のような月が浮いている。
そいつは安物のバーの照明みたいに、路地裏のゴミ箱や、行き場を失った酔いどれの影を、容赦なく白日の下に曝け出していた。
お節介な光だ。黙...