形なき薔薇(ばら)のゆくえ
- カテゴリ: 小説/詩
- 2026/06/27 17:07:54
お母さん あなたのやさしい手はもうなくて
五月の庭には ただあなたの好きだった風がふく
あなたが遺(のこ)していった このぼくのからだには
いまも静かに あなたのかなしみが流れているそれは見えない糸のように ぼくの骨にからみつき
ふとした夕暮れに ちいさな痛みを連れてくる
ぼくらは同じひかりに いま...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
お母さん あなたのやさしい手はもうなくて
五月の庭には ただあなたの好きだった風がふく
あなたが遺(のこ)していった このぼくのからだには
いまも静かに あなたのかなしみが流れているそれは見えない糸のように ぼくの骨にからみつき
ふとした夕暮れに ちいさな痛みを連れてくる
ぼくらは同じひかりに いま...
見知らぬ夏のひかりが ぼくの記憶をたたく
あの日 ぼくがまだ生まれるよりもはるかむかし
ひとつの都市が灼かれ 人々の影が石に融けたとき
ぼくの血のなかに しずかに流れこんだものがあるそれは微かな微かな 追憶の澱(おり)のようでいて
五月のわかばの梢(こずえ)を ふるわせる風のよう
お母さん あなたの...
激しい雨が ステンドグラスを叩き割らんばかりに
春の嵐は 昏(くら)い聖堂のなかにまで吹き荒れる
僕は ただひとりの寂しい個影(かげ)となり
白い花びらに埋もれた きみの棺のまえに立ちつくす冷たくなつたきみの胸元には 一通の未開封の手紙
僕が放つた想いは もう二度と読まれることはない
やがて厳かに ...
激しい雨が 古い教会(チャペル)の窓を叩いてゐる
暗い梢は 狂つたやうに身をよじり
咲いたばかりの白い花びらを むしり取り
泥にまみれた石畳のうえに 散らしつづけてゐる僕は ただひとりの寂しい個影(かげ)となり
冷たい堂のすみで 祈るやうに立ちつくす
どこからか あえかなオルガンの音がきこえる
それ...
あらい風が 青い梢を揺すぶつてゐる
ひそやかに咲いたばかりの 花びらが
僕の帽子のうえに また肩のうえに
ちぎれた手紙のやうに 散り急いでゐる僕は ただひとりの寂しい個影(かげ)となり
あかるい乱気流のなかに 立ちつくす
きみと歩いた あのなつかしい並木道は
いまはもう 遠い追憶の底に沈んでひとはみ...