誰もゐない、夜のしじまのなかに、
古いオルガンは形見のやうに眠つてゐる。
窓からさしこむ、あえかな星のひかりだけが、
あなたの触れた鍵盤のうへに、涙のやうにこぼれてゐた。もう、あの細い指がここに還ることはない。
硝子(がらす)のやうに儚く消えた、優しい面影、
千切れ雲のゆくへを追ふ、わたしのこの手は...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
誰もゐない、夜のしじまのなかに、
古いオルガンは形見のやうに眠つてゐる。
窓からさしこむ、あえかな星のひかりだけが、
あなたの触れた鍵盤のうへに、涙のやうにこぼれてゐた。もう、あの細い指がここに還ることはない。
硝子(がらす)のやうに儚く消えた、優しい面影、
千切れ雲のゆくへを追ふ、わたしのこの手は...
昏い夜の淵に、ぽつぽつと灯る記憶のあわい。
私たちはいつから、これほど遠くへ来てしまったのだろう。
さびしい光が、梢のさきで震えている。
それは、むかし誰かが落とした溜息のようで、
あるいは、もう届かない祈りの破片(かけら)のようで、
あんなに優しかった青い夜空の、あれは静かな、涙のあと。風は、だれ...
I. 閉ざされた窓水色のパステルは いつしか涙に滲み
白浜のハマヒルガオは うつむいたまま動かない
おまえの去った渚には ただ冷たい砂だけが残り
わたしの個影を 夕闇のなかへ深く沈めてゆく岬のすたれたホテルの けして開かない硝子窓
その向こうには もう誰もいない灰色の部屋がある
潮騒は 失われた季節...
I. 窓のひらくだけのトパーズ薄青いパステルの空が 海にとけてゆく
白浜のくぼみに咲いた ハマヒルガオの淡い桃色は
まるでだれかが 砂のうえに落とした
小さな一文字の 恋文のようだった見知らぬ岬のホテルの 白い窓をひらけば
潮騒はかすかな トパーズの階調(しらべ)を帯びて
おまえの残した あの一本の...
I. 渚に咲くもの風のとおるみちすじに ひそやかに
うす紅のともしびをともすものがある
白浜の かわいた砂のくぼみに
ハマヒルガオは かすかな記憶のようにひらかれていた波のきれはしが たえずその足元を濡らし
洗いたてられた貝殻が 光をはね返している
おまえはそこに ひとつの影をおいて去った
まるで最...