【小説】限りなく続く音 4
- カテゴリ: 自作小説
- 2025/08/16 07:48:03
思えばあれは不思議な光景だった。 集まっていたのは、まず私が生まれる前に他界した祖母の筋の親戚たち、これも私にとっては初対面も同然の、あまり馴染みのない人たちばかりだった。 それから、母方の親戚。母は六人兄妹の末で、一番上の伯父などはもう年寄りに見えたし、その子らであるいとこたちは私が物心ついた...
思えばあれは不思議な光景だった。 集まっていたのは、まず私が生まれる前に他界した祖母の筋の親戚たち、これも私にとっては初対面も同然の、あまり馴染みのない人たちばかりだった。 それから、母方の親戚。母は六人兄妹の末で、一番上の伯父などはもう年寄りに見えたし、その子らであるいとこたちは私が物心ついた...
泳ぎ疲れてぐっすり眠った昼寝の後、夕飯までの時間に宿題をしていると草太があれこれと話しかけて邪魔をする。「話しかけないでよ」と言うと、草太は部屋にあった大きなパンダのぬいぐるみを相手にプロレスを始めた。「うるさいなあ、もう、あっち行ってよ」「あっちってどっち」「自分の部屋」「やだよ、何にもないんだ...
くねくね曲がった細道を、草太と二人、浜へ向かって降りてゆく。目覚めて見ていたタチアオイの絵の中をくぐって、波音の源を目指す。民宿や海の家の看板の並ぶ向こうに水平線が見えると、草太は「早く行こう」と私の手を握って駆け出した。「海が近くていいよなあ。毎日泳げるじゃん」 砂浜にビニールシートを広げ、二...
石垣の連なる細い坂道を、水着の子供が駆け降りてゆく。八枚並べた正方形のタイルに描かれた風景画の中で、手前のタチアオイの隙間を時折誰かが横切ってゆく。朝から強い日差しは窓の外を白く霞ませて、わずかにこぼれた光の破片がこの部屋の床に落ちて息絶えていった。 光の中で何かがきらきらと音もなく舞っている。...
帰って来るなり明かりもつけずに、きみは床に座り込んだ。 青いカーテン越しに外灯の光が部屋に差す。きみはそれをうるさいと思う。 なにも今日に限った事じゃないでしょ。 頭のどこかで冷めた声。 けれど一度真っ黒になってしまった気持ちは、とても凶悪で、誰か傷つけずにはおれないような気がして、自分でも持て...